Daily Oregraph: 5月25日 八戸-旅の終わり
5月25日
13時30分八戸駅到着。ここはもともと尻内駅だったのが2002年に八戸駅となり、それと同時にそれまでの八戸駅が本八戸駅に改名されたという経緯がある。
2011年の東北新幹線延伸に伴い駅舎はずいぶん立派になったけれど、
駅前通りにはビルが林立しているわけではなく、ちょっと拍子抜けの感がある。小雨模様だったので歩こうという意欲が失せ、結局確かめはしなかったけれど、この通りをしばらく前進すれば繁華街があるのだろうと思った。
この日は夕方に本八戸駅北口でA君と待ち合せる約束だったから、まだずいぶん時間はあったが、とりあえず14時半頃に約束の場所にやって来た。
やって来たのはいいが、相変らず小雨は降っているし、付近にはビジネスホテルが数軒ぽつんぽつんと建っているだけで、格別気分を引き立てるような景色でもない。この道の先には確実に繁華街があるとわかってはいても、歩く気力は湧いてこなかった。
こちらは南口。かつての八戸駅だから相当栄えていたはずだが、駅前の景色にその面影はない。
しかし一軒の古い旅館が目を引いた。大横綱大鵬やマラソンの円谷選手が「泊ったらしい」というのは、他人事みたいで奇妙な文句である。
長期滞在歓迎というのは、いわゆる商人宿(ビジネスホテルの先駆?)というやつだと思うが、昔はたいていの町にこういう宿があったと記憶している。寅さんが泊まるならこういう旅館がふさわしいかもしれない。
歩かない以上時間のつぶしようがないから、前日に八戸に入っていたA君に電話して、これからどうするか相談した。すると早朝有名な日曜日のなんとか朝市へ出かけた彼も、雨にたたられてさっぱり成果がなかったらしく、やはり時間を持て余していたので、予定を早めて車で駅まで迎えに来てくれることになった。
八戸には何度か訪れて土地勘のあるA君が時間つぶしの場所として選んだのはここ、八食センターである。ぼくは知らなかったのだが、東北地方ではかなり有名な施設らしく、まあ入ってごらんとA君はいう。
店内は外見からは想像もできぬほど広く、へえ、これはたしかに一見の価値はあるなと感心した。釧路の和商市場の何倍もの規模である。漁港らしく水産物もあれば、
そして揚げ物などの惣菜はもちろん、パン屋、さまざまな食堂などがずらりと並んで、さながら一種のワンダーランドである。雨の日に時間を過ごすにはもってこいの場所だと思った。
それにしてもフェリーの出港は22時だから、どうしたって時間を持て余すことになり、結局17時頃には早々とフェリーターミナルに到着。ターミナルのレストランで夕食をすませ、残りの時間をなんとか消化して乗船を待った。
この日のフェリーの部屋。二等だからさすがに窓はないものの、完全個室というのは立派である。苫小牧までの所要時間はわずかに8時間なので、申し分のない部屋といえるだろう。航海中はひどく揺れたが、神薬(?)アネロンが威力を発揮してまったく船酔いはしなかった。
今回の旅は最初に左親指に深手を負ったり(もう一月半以上たっているのにまだ完治していない)、何日か雨に悩まされたりで、あまりついていなかった。しかし懸案も無事解決できたし、秋田と弘前のお城や蟹田の観瀾山も見物できたし、おらが旅はまずまずの目出度さであったといえるだろう。
仙台に着いてから八戸まではA君とは完全に別行動だったが、それでよかったと思う。やはり一人旅は気をつかうこともつかわれることもなく気楽である。みなさまもよくご存じのとおり、よほど気心の知れた相手であっても、毎日朝から晩まで顔を突き合わせていると、感情の微妙な食いちがいが生じがちになるものだ。
ただし食事のときは相手がいたほうがいいような気がする。「孤独のグルメ」はドラマとしてはおもしろいけれど、実際はどうだろうか? 一人で飯を食うとき、たいていの場合、人は心の声など発する間もなく、黙ってさっさと食べ終わるのではないだろうか。
ひょっとしたらぼくが変人なのかもしれないが、旅先で土地の名物をぜひ味わいたいと思ったことはついぞない。なんとか麺やなんとか丼などといった簡便な料理ならともかく、たとえばきりたんぽ鍋やらしょっつる鍋などの鍋物を一人で注文したっておもしろくもなんともないだろう。
あれは「やあ、こいつはうまいなあ」といったり、「うん、いけるね」と相槌を打ちながら食べるところに妙味があるのだから、ひとり黙々と鍋をつつくなど、ぼくはまっぴらごめんだ。やはり旅先では駅ソバがいいね(笑)。
だとすれば、一人旅の行き先に友人の住む土地を選び、夕食を共にしてしばし歓談し、それ以上の迷惑をかけぬうちにその地を去るというのが理想的といえるかもしれない。そんな機会があれば、足腰が立たなくなる前にまた旅に出たいものである。
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