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十月末に新しいスピーカーを購入した。見せびらかすほどの高級品ではないけれど、気に入っている。最近低調なブログのネタにもなるからはりきってご紹介したいところだが、まずはこのたび気がついた大事なポイントについてお話ししたい。
スピーカーのエージング?
新品のスピーカーの音をなじませるためには数十時間あるいはそれ以上の「エージング」が必要だとよくいわれる。しかし aging = growing old (年を取ること)なのだから、ウィスキーを樽で熟成させるのならともかく、ごく短期間でスピーカーに年を取らせるというのは妙な話である。
ご存じのとおりスピーカーはエッジの劣化などがなければ、何十年たっても平気で音を出す。たかが数週間程度で老化するのだとしたら、一年もたてばコーン紙はクタクタになってしまうにちがいない。そんなバカな。
でも「エージングする」と音は変わる
大勢の方がそうおっしゃるのはたしかだ。それをみな「気のせい」にしていいものだろうか?
実はぼくはいわゆるエージング効果には懐疑的だった。自分では明らかに音が変わるという経験をした記憶はないし、どうせオーディオ雑誌のヨタ記事を真に受けてそう思いこんでいるのだろうと考えていたのである。
ところがこのたびスピーカーを購入して毎日聴きこんでいるうちに、音が激変するのを実感したのである。それはとても「気のせい」などではなく、アッと驚くほどの変わりようなのであった。
新スピーカーを鳴らしはじめてまもなく首をひねったのは低音の量感である。全体としてはけっして悪い音ではないのだが、教科書どおりの位置で聞くと明らかに低音が足りない。低音がかなり出るという評判だったし、また最近のブックシェルフでは12~13センチ・ウーファが主流なのにこいつのウーファは16センチ(6.5インチ=いわゆるロクハン)なのだから、もっと低音が出なければおかしい。
そこでスピーカーに耳を近づけてみると、意外にも低音はたっぷり出ている。ところが耳をだんだん離すと、あるところでその低音がフッと消えてしまうのだ。まさかと思ってアンプとの接続を確認したが、配線のプラス・マイナスに間違いはない。こういう現象は初めてだったからびっくりしたのである。
音がガラッと変わったのは四日目(※訂正:実際は五日目)だった。いつものようにアンプのスイッチを入れ、教科書的ポジションに坐ってボリュームを上げると、左右のスピーカーの間からいきなり豊かな低音がたっぷりと響いてきたのだから耳を疑った。これまた初めての経験である。
「エージング」と「ブレイク・イン」
オーディオの世界では怪しげな迷信が横行しているせいもあって、ことあるごとに肯定派と否定派が論争を展開している。「エージング論争」もそのひとつだと思う。そこでたまにはぼくもまじめに考えてみた。
結論からいうと、「エージング」ということばが不適切なのである。あらゆるものは老化するから、丈夫なスピーカーといえども、十年二十年と歳月が経過すれば微妙に音は変わるだろう。それをエージングと呼ぶのならかまわないと思う。しかし新品を使いはじめたごく初期のうちに音がはっきり変わるとすれば、それはエージングなどではありえない。
このたびは明らかに音の変化を認めたのだが、それをなんと呼ぶべきなのだろうか? 疑問を感じながら、ふと輸入代理店が製品に添付した和文マニュアルを読んで膝を打った。なるほど、これならわかる。
新しいうちはユニットの鳴らしこみ(ブレイク・イン)が必要です。ある程度鳴らしこんだ後に設置場所などの詳細なセッティングを行うことをお勧めいたします。
たいへん親切な説明だと思う。ブレイク・インという表現もいい。ただしこれからご説明するように、「必要です」は必ずしも適切な表現とはいえない。
ブレイク・インとは、break in (イギリス英語では run in)と動詞で使えば「エンジン・車などを初めのうち丁寧に運転する」つまり慣らし運転することをいう。break-in と名詞にすれば、「各動作部品が効率よく働くようになる運転初期の段階(つまり慣らし段階)」ということ。
エンジンにかぎらず一般にメカを使いはじめると、必ずブレイク・インの時期を経過してから調子よく動き出すということだ。エイジングの果てには必ず老化=劣化が待っているのだから、ブレイク・インとはまったく性質がちがう。
だからブレイク・インは必要なのでも不必要なのでもなく、またあなたの意志によってしたりしなかったりするものではなく、メカを動かす以上初期のうちに自然に行われるものなのだから、どうのこうのという論争の余地はまったくない。
どうしてもエージングと呼びたければそれでもかまわないけれど、以上から明らかなように、特別の作業はまったく不要であることがわかる。エンジンの回転数を無茶に上げずにふつうに運転していればやがて車の慣らしが終わるように、スピーカーの場合も耳を聾するようなバカでかい音を立てずにごくふつうに鳴らしていれば、だまっていてもいずれ慣らしは完了する。
YouTube にはエージング用の音源と称するものが出回っているけれど、そんなものは必要ない。いやでもなんでもブレイク・インの段階を経過するのだから、いつもどおりに好みの音楽を鳴らしていればいいのだ。どうしてオーディオの世界にはこの手のもっともらしい思いつきが幅を利かせているのだろうか?
ブレイク・インの効果や期間にはスピーカーの個体差によるちがいもあるだろうし、いつの間にか自然に終わるものなのだから、人によってはっきり気づいたりまったく気づかなかったりすることもあると思う。今回はたまたま効果が顕著だったことと、暇にまかせて毎日朝から晩まで集中して聴きつづけたせいもあって、日ごろ鈍感なぼくにもわかったのだろう。
いずれにしても、ブレイク・イン後に音を評価せよという輸入代理店の適切なアドバイスには素直に従いたいと思う。
次回はいよいよ ELAC DBR62 について。
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