Daily Oregraph: ハズリットからラムへ
本日の最高気温は 21.6度。晴れ。
ヤマブキショウマ。春採湖畔でもみかける植物である。若芽は食用となるのだが、わが家ではたった一株なので食ってしまうわけにはいかないし、第一ぼくには若芽を見分けるほどの眼力がない。
さてずいぶん時間がかかったけれど、やっとハズリットの著作集を読み終えた。この人は文章がうまく随筆の名手である。しかし性格にはやや難があって、世間と衝突を繰返しながら一生を送ったらしい。
真実(truth)と自由(liberty)を旗印に、いったんこうと決めたら、その後事情がどう変ろうとてこでも動かない。妥協ということを知らないのである。たとえ年来の知人であっても、途中で心変わりするような人物に対しては、情状を酌量せずに容赦なく非難を浴びせるから、必要以上に敵を多く作る。自ら「ぼくはどうしてみんなにこれほど嫌われるのか知りたいものだ」とこぼすくらいで、有力者に取り入って楽な人生を送るなど無理な相談であった。
この人には Liber Amoris (『愛の書』ほどの意味かと思う)という一編があって、たいていの文章には驚かないぼくも、これにはビックリ仰天した。これは当時43歳の彼が下宿屋の19歳の娘に恋慕して、俗にいえば「女に手玉に取られ」た挙句に振られてしまった事件の顛末を赤裸々に描いたものだ。言い寄っても言い寄っても結婚の承諾を得られなければ、たいていはすっぱりあきらめてしまうものなのに、この人の辞書には「撤退」の文字がないので、読者を散々いらいらさせながら、悲惨な結末へ向かって突貫するのである。
いい年をして馬鹿じゃないか、あいつ一体どうしちゃったんだ、というのが当時一般の反応だったかと思うけれど、男が女の色香に迷うのはよくある話で、ひょっとしたらあなたにだって経験はおありかも知れない(笑)。ぼくが驚いたのはそこじゃない。これを世間に発表したことである。こんなみっともない話を公にすればどうなるかは容易に予想がつくから、ふつうならせいぜい親友に愚痴をこぼすくらいですませるだろうと思う。
真実一路の人物だからウソはつけないということもあるのだろうが、たぶん思ったことはすべて書かずにはいられなかったのだろう。出来はともかく、文学史上希有の怪作といえるのではないか。
このハズリットの長年の友人に『エリア随筆(The Essays of Elia)』の作者チャールズ・ラム(Charles Lamb, 1775-1834)がいる。今どき彼の随筆を読む人は研究者くらいなものだろうが、(ぼくの曖昧な記憶によれば)旧制高校あたりではよく読まれていたはずである。
ハズリットを読んだのも何かの縁、次は『エリア随筆』と決めた。ああ、ますます21世紀から遠ざかる……
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