本日の最高気温は20.3度。曇り。
ひさしぶりに港町岸壁に立ち寄ってみた。ごらんのとおり、ほぼ無風状態である。
さてテレビの安倍氏追悼茶番劇にはほとほと愛想が尽きたので、食い物の話でもしよう。
先日捕鯨船員が喜んでイルカの肉を食ったと書いたけれど、本日は鯨肉の話である。イルカを食うからには当然鯨も食ったはずで、それにはきっと栄養上の必要もあったにちがいない。
めったに港に寄らず何年も航海をつづける間、塩漬けの豚肉と固いビスケットばかりでは栄養不良になる。新鮮な鯨肉は貴重な蛋白源であるばかりでなく、ビタミン補給源としても大いに価値があったはずだ。
『白鯨』第64章では、マッコウクジラを仕留めた二等航海士スタッブが「ステーキだ、寝る前にステーキだ! おい、ダグー、鯨の small から一切れ切ってこい!」という(仕留めた鯨は舷側にロープで固定してある)。
Small というのはものの細く狭まった部分をいい、辞書には「腰のくびれ」なんて意味も載っている。コルセットを着用した婦人の腰を想像するとなるほどと納得できるけれど、メタボなおじさんにスモールは存在しない。
鯨のスモールとは尾の少し手前あたりである。つまり肉の部位でいえば「尾の身」と解釈していいだろう。鯨肉好きのスタッブは一番うまい部位を当然知っていたのである。彼は肉の焼き加減にもうるさく、超レアでなければ気に入らないから、「おまえのは焼きすぎだ」と料理番に説教している。
つづいて第65章では鯨料理についてあれこれと書かれているので、ごくかいつまんでご紹介すると、
鯨が捕鯨船員の間でよく食べられていたのはもちろんだが、古くから美食家の間では珍重され、脳味噌などは極上の珍味とされていた。しかし陸上の人々の間では鯨食いは一般的ではなく、どちらかといえば忌み嫌われていたらしい。脂っこすぎるというのも理由だが、メルヴィルは「海で殺されたばかりの(血にまみれた)鯨を、あろうことか鯨油ランプの光の下で食うとはなにごと」という心理も働いていそうだとしている。
もうひとつ当然考えられるのは、沿岸で獲れた新鮮な鯨の肉ならともかく、冷凍技術のない当時、遠洋の鯨が市民の食卓に登場することはまずなかったということである。船上で塩蔵や酢漬けにすれば可能だろうが、高価な鯨油とちがって肉の需要は乏しく、採算にも合わなかったのではないか。
いずれにしても、メルヴィルが証言しているように、西洋人も鯨のステーキをパクパク食べていたのだから、日本人が特殊だというわけではない。うまいものはうまいのだ。
そんなことよりぼくが気になるのは、スタッブ氏のステーキの味つけだ。船上のことだからたぶん塩胡椒だけじゃないかと推察するのだが、鯨肉にはクセがあるから、ショウガやニンニクをたっぷり入れたソースをかけるのがよさそうである(追記参照)。
さっそく試してみたいところだが、ステーキ用の尾の身なんてめったに手に入るものじゃありませんぜ。残念!
【追記】第72章にショウガ水が登場するから、ショウガは船にあったらしい。それならたぶんニンニクもあったのだろう。しかしスタッブ氏はショウガをバカにしているので、やはりステーキは塩胡椒のみだったと考えられる。
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