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December 21, 2020

Daily Oregraph: 自転車捕物帖

 本日の最高気温はマイナス0.4度。風が冷たい。

201221_01
 これは昨日撮影した写真だが、今日もまったく同じ景色。大雪のつづく日本海側のみなさまには申し訳ないけれど、こちらは連日好天である。

 さて今回は『孤独な自転車乗り(The Solitary Cyclist)』で、依頼人はまたしても女性家庭教師である。しかも年100ポンドという標準の倍額で雇われているというのは『ブナ屋敷』事件と同じ設定であり、これはなにかあるなという印象を与える。

 依頼人がスカートをはいたまま颯爽と自転車に乗るモダンガールであるのは興味深い。この作品が発表されたのは1903年だから、もちろん変速機などはないけれど、自転車はほぼ現在と同じかたちだったであろう。イングランドの田園風景の中、スカートをひるがえして自転車を走らせる若い女性はなかなか絵になり、新鮮味があると思う。

 さて彼女の指先がヘラ状になっているのを観察したホームズは、タイピストかピアニストであろうと見当をつけた。本当に一目でわかるほど指がヘラ状になるかどうかはともかく、彼女は音楽を教えているから正解は後者だったのだが、ここでタイプライターが登場したことは見逃せない。

 つまりこの頃には、自立する女性の職業として家庭教師以外にタイピストが選択肢として存在していたことがわかるのである。タイプライターは当時まだ洗練された機械でなかったとは思うが、ここ数年間19世紀中頃の小説を多く読んできたぼくからすると、新時代の到来(笑)を感じないわけにはいかない。

 この作品で残念なのは、ちょっと考えれば犯罪の動機がわかってしまうことである。ネタばれを恐れずにいうと、わざわざ犯人たちが南アフリカから英国に移り、住まいを確保してまで計画を練るからには、投資(?)に見合う相当額の金銭が目的でなければならない。彼らの狙いは貧しい女性なのだから、彼女がいずれ相続するはずの遺産がらみだろうと見当がつく。

 なお遺産目的に結婚しようとする犯人の一人は、彼女に嫌われてもしつこく言い寄るという実に柄が悪くいやらしい人物なのだが、思い切って一見紳士風の女たらしという設定に変更し、彼女もころっとだまされてしまうという展開にすると面白かったんじゃないかと思う。しかしそれだと話が発展しすぎて、短編ではおさまらないかも知れない。

 この短編はけっして成功作とはいえないかも知れないけれど、拳闘の達人ホームズが得意の左ストレートを披露する場面もあるし、それなりに楽しめるだろう。

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