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November 11, 2020

Daily Oregraph: 競馬捕物帖

 本日の最高気温は6.5度。上天気だったけれど、風が強くて寒い!

201111_01

 港町に来てみたらカモメが突堤に集結していた。ものすごい数である。諸君、ちょっと密すぎるぞ。鳥インフルエンザの心配をしたほうがいいと思うよ。

 さて今日の捕物帖はおなじみの『シルバー・ブレイズ号事件(The Adventure of Silver Blaze)』である。一番人気のシルバー・ブレイズ号が何者かによって連れ去られるというもので、これまたたいていのアンソロジーには収録されている。

 途中省略して(笑)、ぼくの興味はシルバー・ブレイズの優勝賞金額である。ところがぼくは競馬についてはまったく無知だから、賞金がどうやって決まるのかさっぱりわからない。

 唯一の手がかりはレースに関する次の情報のみである。

  50 sovs. each, h ft, with 1,000 sovs. added, for four-and five-year olds. Second £300. Third £200.

 こういうのは辞書をひっくり返しても到底わからない。わからんものはわからんのである。だがわからんままでは不愉快だから、しつこくググってみたらたいへん丁寧な説明があって、へえ、なるほどねと思ったので、メモを兼ねてお伝えしよう。

 最初の50ソブリン(ソブリンはかつての1ポンド金貨)は出走登録料である。"h ft" というのは、"half forfeit"(半分違約金として没収)、つまり出走を取り消したら半分の25ソブリンしか返却しないよということなのだが、"h ft" からそんなことわかるかよ? 次の 1,000ソブリン追加というのは、レースのスポンサーが賞金として支払われる資金に追加したというのである。お次は簡単で、出走馬は4歳馬と5歳馬。2着賞金は300ポンド、3着賞金は200ポンドで、これらは賞金資金総額とは比例しない固定額である(4着以下は不明)。

 もともとの賞金資金を仮にSとして、出走馬の総数6頭のうち4等以下を賞金ゼロとすれば、シルバー・ブレイズが優勝すると、優勝賞金は S+1,000-300-200=S+500(ポンド)ということになる。

 ではこのSとは? 原文だけでは不明なのでさらにググってみると、これについては平賀三郎さんの『ホームズまるわかり事典』という本に鈴木利男さんの担当された記事があって、「出走登録料と出走取消し違約金の合計」だという。

 シルバー・ブレイズの馬主は、当初もう1頭の持ち馬を出走登録していたが、そちらは出走を取り消しているからS=50×6+25=325(ポンド)。それに500ポンドを加えて総額825ポンドである。

 鈴木さんのお考えでは、馬主として25ポンドの違約金を負担しているのだから、「ロス大佐は差し引き800ポンドを得た、と推定されるのである」(鈴木氏)。しかし、それをいうなら出走登録料の50ポンドだって差し引かなくてはならないから、実質的に手取りは750ポンドになってしまう。だからあくまでも受取り賞金は(グロスで)825ポンドとするのが正解だとぼくは考える。

 さらに鈴木さんの参照されたいくつかの邦訳では、一人の翻訳者を除いて優勝賞金を1,000ポンドと明記しているという。しかし今見てきたように、これは誤り。このように、不案内な分野では詳しい方の協力がなければ、相当の実力をお持ちの翻訳者といえどもとんだ間違いをしかねないから、翻訳とは簡単に引受けられない、たいへん恐ろしい泥沼なのである。君子なんとかに近寄らず、ですな(笑)。

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