Daily Oregraph: 裏庭画報 カタクリ
笹がひどくはびこっていたので、バッサバッサと切り倒していたら、いつもの場所にカタクリが一輪咲いていた。完全に隠れていたので見えなかったのである。
カタクリが生き延びていてくれたのはうれしいが、乱暴に笹を始末したせいで、オシベがひとつダメージを受けてしまった。どうもすまないことをしたが、苦情は笹にいってもらいたい。
さてカタクリのあとに怪しいキノコというのもなんだが、これは「ヒトヨタケの生長」の図である(小川 真著『きのこの自然誌』1983年 築地書館より)。どうしてぼくがこれを見て驚きもし感心もしたのかというと、小川先生によれば、
(ザラエノヒトヨタケは)完成したひだに胞子ができはじめると、かさが広がり、上にまき上がってとけだす。
これは菌の酵素が自分自身の細胞をとかす作用で、自己消化と呼ばれている。かさのとけた黒い汁のなかにはいった胞子はしずくのように土の上にたれて、雨で流される。ザラエノヒトヨダケがとけだすと、生臭い匂いがするので、ハエがやってくる。胞子は黒くてねばねばしているので、ハエの体につきやすい。ごみからごみをわたり歩くハエに運ばれて、ザラエノヒトヨタケは広がることができる。(pp. 90-91)
なんと、自らの酵素が自らを消化するとは! 落語の「頭山」を連想させる話で、昔々プログラミング言語 Pascal で「再帰」を教わり、あまりの不思議さに(笑)頭がボーッとしたときのことを思い出した。
外部からの病原菌やウィルスではなく、おのれの酵素によっておのれが融け、あとに黒くて臭い汁を残す……これではまるでアベノヒトヨタケではないか。そのまま地上から消滅すればいいのに、「ごみからごみをわたり歩くハエに運ばれて」広がっていくとは困ったものである。
まことに意外だったのは、このヒトヨタケ、名前どおり非常に短命なのだが、溶ける前なら食用になるという。しかも欧米では珍重されるらしい。しかしぼくにはまるで食欲が湧かないのである(笑)。
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