Daily Oregraph: こんな日には冬の怪談を
台風一過、ひさびさに暑い一日であった。といっても最高気温26.4度だから、散歩できないほどではない。
相生坂下のミヤマニガウリの実はかなり成長した。花は径数ミリという小さなものである。成熟すると実は自然に割れて、種がポロリと落ちる仕組みになっている。
さて夏だから怪談のひとつも……というわけではないけれど、ディケンズの『クリスマスツリー』(1850)という小品の中にこんな話があったのでご紹介しよう。題名からわかるとおり、かの国では冬、特にクリスマスのあたりが怪談のシーズンなのである。
某氏のある友人、とは諸君もたいていご存じの人物だが、若いころ大学在学中に親友とこんな約束をした。もし肉体を離れた霊魂が地上に戻ることがあるなら、二人のうち先に死んだほうがもう一人の前に現れようというのだ。時がたつうちに、彼はその約束を忘れてしまった。二人の若者はそれぞれまったく別の道を選んで人生を歩んだのである。しかしずいぶん歳月の流れたある日、かの人物はヨークシアムーアズのとある宿で一夜を過ごし、ふとベッドから目をやると、月光を浴びて窓辺の机にもたれ、ジッと自分を見つめている姿があって、それこそは大学時代の友人なのであった! 粛然として問いかけると、亡霊はささやくような声ながらはっきりと答えた。「近寄ってはいけない。ぼくは死んでいる。約束を果たしに来たのだ。ぼくは異界から来たけれど、その秘密を漏らすわけにはいかない!」そういうとその姿は薄れはじめ、月の光に溶けこむようにして消えていった。
はてな、この話はどこかで読んだおぼえがある。せっかくだからこちらもあわせてお読みいただきたいと思う。後半はちょっとちがうけれど、前半はまるで同じだし、全体としては瓜二つといっていい。
成立の順序からいえば、ディケンズがブルーム氏の話を脚色したようにも思えるが、死者の霊が生前の約束を守って友人の前に出現するというのは、幽霊話のひとつのパターンなのかも知れない。雨月物語の『菊花の約(ちぎり)』も、結局は同じ趣向である。
ついでだから幽霊を見たという経験談のひとつもしたいところだが、あいにく一度もお目にかかったことはない。すでにこの世を去った友人は何人かいるけれど、先に死んだほうが化けて出るなどというバカな約束を交さなかったからだろう。
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