Daily Oregraph: 童話 白と黒
-まあ、お父様、ごらんになって。真っ黒い旗よ! 気味が悪いわ。
花子さんがそう叫ぶと、大きな黒い旗の下に立っていた、えらそうな顔をしたおじさんがにらみつけました。
-娘、これが黒に見えるというのか? 純白の旗ではないか。
お父様は花子さんを引き寄せて、だまっているように合図しましたが、そこはこどもです。正直な花子さんは、
-だって黒いじゃありませんか。
-だまれ。わしはえらいのだ。そのえらいわしが白だと確信しているのだから白にちがいなかろう。
こわいおじさんの回りに並んでいた背広姿の男たちが、ジリジリと花子さんのほうへ近づいてきました。
するとお父様はペコリと頭を下げて、花子さんをぐいぐいと引っぱりました。男たちになにをされるかわからなかったからです。
公園を出ると、花子さんはお父様にいいました。
-私怖いわ。あのおじさん、ちょっと変じゃないかしら?
-ちょっとどころではありません。ふつうではないのだから、関わり合いになってはいけませんよ。
そこへ近づいてきたのが、質屋の番頭さんみたいに渋い顔をした、やせたおじいさんです。お父様はその人の顔を知っているらしく、お顔が真っ青になりました。
おじいさんがニコニコしながらいうことには、
-お嬢ちゃん、あのおじさまはけっして怖いお方ではありませんよ。気に入った人には、親身に面倒をみてくださいますしね。それに私たちがていねいにご説明すれば、あなたにだってあの旗が白く見えてきますからご安心なさい。
-まあ、あきれた。どんなに説明したって、黒は黒ではありませんか。ウソをついてはいけないと、学校の先生がおっしゃいましたよ。
-ハハハ、お嬢ちゃん、その先生のお考えは偏っているのです。白か黒かはお上の決めることですよ。いうとおりにしていれば、あなたも立派な少国民なのです。えらい人に逆らってはいけません。道徳、習ったでしょう?
そのとき公園の中から「ニッキョーソ、ニッキョーソ!」という、素っ頓狂な叫び声が聞こえてきたので、花子さんはビックリして泣き出しそうになりました。
お父様は花子さんを抱きしめて、
-長官、こどものいうことですから、どうかご勘弁を。
-なあに、こどもには判断力がありませんからな。今後ご家庭でちゃんと教育してくだされば、それで結構です。私たちだって鬼じゃないのですから。では、ごきげんよう。
そういって、おじいさんは公園に入っていきました。
-お父様、どうして黒を黒といってはいけないの? それに、あれが白に見える人なんているのかしら?
-それがいるのです。たとえ白に見えなくとも見えるという人が、たくさんいるのです。
お父様の体はブルブル震えているようでした。 (おしまい)
童話ですよ、童話。こどもにもわかる話です。
Comments
本当に鹿を馬と言ってきかない連中には閉口してしまいます。
・・・あれ・・・黒を白だったっけ?
Posted by: 三友亭主人 | September 18, 2015 06:35
>三友亭さん
反対する国民のほうが多数を占め、九割以上の学者が違憲と主張しているものを合憲と言い張るのは、まさに黒を白といいくるめることです。少数意見(笑)は尊重すべき、という事例には相当しません。
悲しいことですが、世の中には黒白の区別のつかぬ人々も存在するものです。相手はまともではないのですから、当然議論など成立しません。慶応の小林節さんがおっしゃる「バカの壁」ですね。
なにをいっても通じないのなら、そういう傲慢かつ愚かな連中は選挙で落選させるしか手はありません。
一連のデモは(与党の恐れる)投票率向上に寄与するものとして、ぼくは高く評価しています。シールズの諸君が若いの未熟だのとしたり顔で批判することには賛成できません。ご自分の胸に手を当ててみれば、若者が未熟なのはあたりまえだとわかるはずです。成熟した若者なんて薄気味悪いではありませんか。
ごくふつうのおじさんやおばさんまで多数デモに参加したという事実、そして大本営発表の欺瞞に多くの人が気づくきっかけを与えたという事実は、かれらの功績として認めなくてはいけないと思います。
今回の法案に賛成した議員は、国会、地方議会を問わず、リストを作成して、一人でも多く落選させること。一度で成功しなくとも、しつこく名前を記憶しておき、何度でも落選させるよう努力すること。長期戦になりそうですが……
そのためにも若者たちの運動の足を引っぱらず(それこそ政権の思う壺です)、それぞれの立場で可能なかぎり協力すること。なにしろ今回の法案の影響をもろに受けるのは彼らなのですし、放っておけば、当然徴兵制が目の前にやって来ますよ。
このまま主権者がなめられていてたまるか、ということですね。
Posted by: 薄氷堂 | September 18, 2015 09:18