Kyotorogy 2014: 奈良へ (2)
奈良駅に到着後最初に撮ったのがこの写真。つまり奈良駅や奈良市街の写真は一枚も撮影してない。
奈良駅の改札口まで迎えに来てくださった三友亭さんのお車で、まずは天理市の天理大学付属天理参考館に案内していただいたのである。鹿に煎餅を食わせるのではなく、最初に博物館見学というところなど、脱俗超凡の趣があっておおいに感心した。
大男と人もいい、三友亭さんご自身もそうおっしゃっていたから、ぼくは雲つくばかりの巨漢を想像していた。想像というのは勝手にふくらむもので、まことに失礼ながら、いつの間にか Sanyutei the Giant、相撲取りかプロレスラーのようなお姿を思い描いていたのである。
たしかにぼくよりもずっと体格のよいがっしりしたお方ではあったが、見ると聞くとは大ちがい、巨人とは明らかにいいすぎで、実はまことに温厚な紳士なのであった。
宗教都市として知られる天理市もまた百聞は一見にしかず、ぼくの勝手な想像とは異なり、独特の壮麗な神殿風建築にはいささか驚かされたものの、からっとして明るく清潔な都市という印象を受けた。
おお、これが名高い三角縁神獣鏡か! わが家の裏の畑からこれが出土すれば、歴史学会は大騒ぎになるのだが、あいにく出てくるのは茶碗のかけらぐらいなものである。
……とまあ、そんなことを考えながら、天理参考館内を一通り見学させていただいたが、日本はもとより広く海外から収集した多彩なコレクションには圧倒された。民俗学的興味のある展示品も多く、とにかく一度は訪れるだけの価値があると申し上げておきたい。
館内ではずいぶんたくさん写真を撮ったが、ここにはとてもご紹介しきれない。しいてもう一枚だけ選ぶとすれば、特に気に入ったこの馬の埴輪であろうか。これ、ワンダフルだよ。
ゆっくり見学すれば時間がいくらあっても足りないから、一巡りしたのち参考館をあとにして向かった先こそ、個人的には今回のハイライトともいうべき場所であった。
三友亭さんの母校である天理大学のキャンパスへ。
ああ、これこそぼくが長年夢にまで見た天理大学付属天理図書館である。文学部出身者にしてこの図書館の名を知らぬものはモグリといっても過言でないほど有名な施設である。生きているうちにこの目で見ることができた喜びはとても言葉ではいいつくせない。
とはいえ、石を投げれば文学部出身者に当たるご時世では、そのモグリも中にはいかねまいから、この図書館のすごさを示すほんの一例をお目にかけよう。
写真はぼくが京都滞在中に読んだ、加藤周一著『古典を読む 梁塵秘抄・狂雲集』(岩波 同時代ライブラリー)の一ページだが、このような例は枚挙にいとまがなく、天理図書館には貴重な文献があまた収蔵されている。
この重厚な木製の扉を見て胸の高鳴らない人がいるだろうか? ところが、いざ中へ入ろうとすると、意外にも三友亭さんは本当に入るんですかというようなお顔をされた。ご自分が散々通い慣れた図書館だから、たぶんありがたみが薄れていたのであろう(笑)。
時間がかぎられているので、ともかくちょっとだけでもと駄々をこねて入館したら、クラシックなカウンターには職員の方が数名居並び、まことに厳粛な雰囲気であったから、写真を撮るのはさすがにはばかられた。しかしともかく入館し、休憩室で水分を補給できたことは一生の思い出である。長生きすれば、いつかは願いがかなうものだ。
三友亭さんにはさぞご迷惑であっただろうが、人生の大目的をひとつ果たして、ぼくはすっかり満足してしまった。
ちょうどお昼時、三友亭さんの予約してくださった料理屋で昼食とあいなり、9月15日に京都に来て以来はじめてまともな食事を口にすることができた。ありがたいことである。
毎日西陣の狭い部屋でひとりものもいわずに過ごしているうちにすっかり落ち込んでいた気分も、ひさしぶりに打てば響くように言葉の通じる方とゆっくりお話しできたおかげで晴れ晴れとし、やっと人心地がついたのはうれしかった。
次回へつづく。
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Comments
結構暑い日でしたね。
でもその数日後からだいぶ過ごしやすくなって・・・
暑がり屋の私ですから、少々気温が下がったって半袖でいるんですが・・・今朝はとうとうシャツの上にちょっとしたものを羽織ってしまいました。
>まずは天理市の天理大学付属天理参考館に案内していただいた
いやいや、私だってこんな機会がなければなかなかいく機会のない所ですから、薄氷堂さんを口実に最初の訪問場所に選ばせてもらいました。
天理図書館だって・・・本当に久しぶりでした。でも、あれがきっかけで、それからもう2回、天理図書館に出かけることが出来ました。思わぬ眼福を授かることが出来ました。
Posted by: 三友亭主人 | November 08, 2014 07:26
>三友亭さん
暑かったですねえ。28~29度はあったんじゃないでしょうか。ぼくは長袖しか持っていかなかったから、このたびはずいぶんつらかったです。
天理参考館のコレクションには驚きましたよ。あの情熱は天理図書館に共通するものなのかも知れませんね。とにかくたいしたものです。
こちとら千円ウィスキーの空きビンを貯めるだけだというのに(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | November 08, 2014 08:24