Kyotorogy 2014: 三人同窓会 後編
河原町三条から丸善が姿を消した今、喫茶店六曜社は貴重な存在である。なつかしいなあ、というので入ることにした。
ぼくは六曜社よりも、通りの向こう側の(たしか)クローバーという目立たぬ喫茶店をよく利用したのだが、そのお店はとっくに姿を消した。丸善で買ったばかりの本を広げてインクの匂いを嗅ぎながらコーヒーを飲むのは、月に一度の贅沢であった。
凝ったデザインのカップにコーヒーがたっぷり。これからどうしようか相談したのだが、今さら観光名所でもあるまいから、結局は無方針のまま歩こうというということになる。
足が三条大橋に向いたのは、まあ自然の流れだったと思う。T君だったかI君だったかは忘れたが、橋の近くで風変わりなお店を発見し、あそこはなんだろうね? という。
竹箒や刷毛、それに亀の子ダワシらしきものが並んでいるけれど、屋号も看板も見あたらない。昭和どころか大正風の雰囲気が漂い、一種超然たる趣さえ感じたのは、さすが京都の貫禄であろうかと、三人ともむやみに感心する。
いままでどうして気づかなかったものか、とにかく一見の価値あり。
三条大橋を渡る。
鴨川はやはり水量が多く、少し濁っているようだ。
三条大橋を渡ってしばらく行くと、以前ご紹介した路地がある。路地の手前の居酒屋はT君にとっては思い出のお店らしい。そんならあとでここに来ようと決めて、さらに前進。
路地の南側には市営住宅の建ち並ぶ地区があり、昔なにがあったのかは知らないけれど、I君はやたらこの一帯に詳しく、公衆トイレの場所まで把握していた。
一同トイレをすませてから、祇園方面へ向かって南下。
めざといT君のみつけたふしぎな広告。80年前に東京大学高橋教授の開発したオパールと、110年の信頼を誇るヘチマコロンの対決である。こういう発見こそ京都市内散歩の醍醐味だろう。
この日二度目の通訳を勤めたのはこのあたりであったか。母娘らしき白人観光客が地図とにらめっこしているのを目にした二人は、おい助けてやれよ、そうだ君の出番だ、などと無責任なことをいう。二人とも専攻は歴史だから、至って気楽な顔をしている。
そういわれたって、ぼくにこのへんを案内できるわけがない(笑)。それでもあちこちで道をたずねながら、やっと目的の居酒屋をみつけたのは上出来であった。開店までにはまだ時間があるので、「六時まで待たなくちゃいけませんよ」というと、「パーフェクト。場所がわかったから、それまで時間をつぶすので大丈夫よ」というわけで任務終了。冷汗をかいてしまった。
ぼくたち三人組は六時まで待たずに、さきほど決めた居酒屋へ入店。T君はかつてバイト帰りにここによく寄ったのだという。なつかしいお店の健在だったことが、よほどうれしかったらしい。
-おい、これはなんの刺身だい?
ふたりともぼくに軽蔑の視線を向けて、なんたる田舎者であろうかという顔をするのには参った。なんとか貝だと教えてくれたけれど、酔っ払っているうちに忘れてしまったのは悲しい。
T君やぼくとはちがって、I君は最初からしまいまでサッポロビールをぐいぐいやる。彼はサッポロびいきなのである(えらい!)。ぼくもお相伴して、ひさしぶりにサッポロのラガーを味わった。
I君とは大阪でつもる話をしたので、ここではもっぱらT君の話に耳を傾けた。人間何十年も生きるというのはそうたやすいことではない。お互いにそれなりの苦労はあったし、いまも苦労はつきないわけで、ちょっとしんみりした気分になる。
T君がおかみさんから撮影許可をいただいたので、ぼくも便乗して一枚。40年前にT君が通った頃、彼は美青年、おかみさんは若い娘さんだったのである。
聞けばバイト君二人は大学の後輩とか。そうか、君たちも元気でやれよ、とえらそうなことを言い残して、酔っ払い三人はふたたび夜の町へ。
このあとどこへ行こうか散々迷ったあげく、
結局四条河原町近くのビアレストランで二次会とあいなった。
酔っ払いのくせに、このお店では文学や歴史などについて、なんだかむずかしい話をしたように記憶している。二人ともずいぶん本を読み、勉強を怠っていないのにはおおいに感心した。立派な友人を持てたことを誇りに思う一方で、一番バカなのはおれじゃないかと反省もさせられたのであった。
そのバカを、二人は高島屋前のバス停近くまで送ってくれた。どうもありがとう、二人とも元気なうちにきっと釧路に来るんだぞ。
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Comments
>なんとか貝だと教えてくれたけれど
トリ貝ですね。私も関西に来たばかりの時はいったいこれはなんだと首をかしげたものでした。まあ、最近はそうでもありませんが、ちょっと前まではこっちの連中に北寄貝やホッケをみせても首をかしげていたんだからおあいこですよ・・・
Posted by: 三友亭主人 | November 29, 2014 07:05
>三友亭さん
やっぱりトリガイでよかったんですね。ただの「トリガイ」だったか、「なんとかトリガイ」だったか思い出せなかったのです。
正直いって、味の点ではホッキのほうが上ではないかと思いました。
いまやホッケはすっかりポピュラーになってしまいましたが、ホッキなら連中もまだ知らないかもしれません。
Posted by: 薄氷堂 | November 29, 2014 16:10