Daily Oregraph: 冬はタラを、夏は森でワインを
タラのアラ97円也。持ってみたら、ズシリと重い。なんと頭の部分が大二尾、小三尾分に、肝がたっぷり。タラはここが一番うまいのだから、迷わず買うしかないよね。
というわけで、たったいま鍋にしておいしくいただいた。低予算で豊かな生活、というわがモットーにもぴったりかなう理想の夕食であった。
さてまたしても古新聞記事から。政治経済欄は気分が暗くなるから、しばらくは敬遠して文化欄に専念することにした。
今日はふたつの記事を取り上げるが、どちらも2011年6月5日のもの。どうしてそんな古い新聞を読むかというと、おもしろそうな頁だけ二三日中に読むつもりで残しておいたら、光陰矢のごとし、あっというまに何ヶ月もたってしまったというわけである。そんな心がけでは大成はおぼつかないのだから、この冴えないおっさんを反面教師として、若者には学問に励んでいただきたい。
まずは宮本亜門さんのインタヴュー記事から。この人はTVで二三度見たことはあるのだが、ニコニコと笑顔を絶やさぬ穏和な人物という、通りいっぺんの印象しか受けなかった。しかしこの記事を読んでその印象はいっぺんに変わってしまった。
テレビや野球とは縁遠かった芸術家肌の彼は、十代の頃は級友たちと趣味がまったく合わず、村八分に近い扱いを受けた結果、いわゆる引きこもりになってしまったらしい。その後苦闘の末に進むべき道を見い出し、演出家として大成したのだという。
異分子に冷たい日本の社会では若いころ苦労したわけだが、その後英国と米国に滞在して演劇などを学んだ彼は、手放しで英米を礼讃するわけではない。それぞれの長短を冷静にみつめている。つまりバランス感覚に富んでいるわけだ。しかも柔和なみかけとは大ちがいで、勇気と大胆さと行動力をたっぷり持ち合わせているのには感心した。
みずから改名した「亜門」とは亜細亜の門という意味らしい。無知だったおわびに、今後注目したい人物だと思った。好記事である。
次は C.W. ニコルさんの文章。この人の記事はいつ読んでもすがすがしい気分になるので、ぼくは気に入っている。今回はブナ礼讃。
ブナは世界中で大切にされているのに、なぜか従来日本では役に立たない木とされ、お上ではブナを伐採して針葉樹を植えるよう奨励してきたらしい。
ブナは保水力にすぐれ、材の加工性も高く、実は野生動物のよい餌となり、薪にすればよく燃えるなど、たいへん有用な木だという。よく茂る葉が集めた雨を蒸散させ、夏には天然のクーラーの役割を果たす。樹齢は約400年だが、老樹になると内部が腐朽して空洞ができる。しかしそれによって軽くなるため、かえって倒れにくく、空洞そのものもフクロウなどの格好のすみかになるらしい。
おしまいの部分からちょっとだけ。
だんだん年を取るにつれて、暑く日の照る日に森の中をさまようのを、私は楽しみにしている。適当な場所を選び、ふかふかと木の葉に覆われた地面に腰をおろして、自分たちの植えたブナの木に背中をあずけ、ワインか冷たいビールをちょっぴり啜って、本を読んだりもするのである-いやただまどろむだけでもいい。
いいなあ、森の中でワインか。実にうらやましい心境だけれど、こういう時間の過ごし方は、落ち着きのない日本人には向いていないかもしれない。いまから修行したら間に合うだろうか。
なおニコルさんは、ギョウジャニンニクを wild garlic としていたのでご参考までに。なるほどね。
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Comments
タラのアラだけを売っているのがうらやましいですよね。
こちらじゃあ、あらを手に入れようと思ったら一匹丸ごと買わなくっちゃあ・・・そうすると、ちょいとかたのいいやつだったら3000円は下らないし・・・・
でも、タラ鍋はアラが大事ですよね。
Posted by: 三友亭主人 | January 19, 2012 06:06
>三友亭さん
アラはときどき売っていますが、漁模様によってずいぶん値段がちがいます。同じ値段でも量の多少がありますしね。昨日の97円はバカ安でした。
タラ鍋にはアラだけあれば十分というか、アラがなければ魅力半減ですね。ぼくは身は鍋よりもフライのほうがうまいと思います。
ほうら、食べたくなってきたでしょう(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | January 19, 2012 09:25
薄氷堂さま
ば、ばかな。97円って……。
う~~む。悔しいなあ。タラ……。
こんにちは。お邪魔しに来ました。
うちは親父が小樽出身なので北海道的食い物はマニアックですよ。うふふ。
ときに酒の肴系はね。
逆にいまどきの流行りにはなかなか反応できません。
また、ときどき寄せてもらいます。
Posted by: 根岸冬生 | January 19, 2012 11:28
>根岸冬生さん
いらっしゃいませ。
97円のタラ、ありがたいですねえ。低所得層のひとりとしては(笑)、涙がこぼれるほどうれしいです。
大震災の直後から消費税の一時凍結を主張しているぼくとしては、ドジョウのおじさまには消費税を上げていただきたくないものですね。
しかしあまりみじめな生活を送るのも情けないですから、ちょっぴり見栄を張って、今年の夏はブナの森で冷えたワインを飲みたいなあと思っていますが、さてどうなりますか。
ではこれからもよろしくお願いいたします。
Posted by: 薄氷堂 | January 19, 2012 23:22
うーむ・・・昨日は某嬢のブログで鰤のカマ(1パック300円ほど於首都圏)と大根のお鍋の画像を見て涎を垂らし、今日はこちらで鱈のアラと肝!
これは私に鮭のアラを買って何か作れ!という暗示なのでしょうか??
ところで、鱈のアラ鍋の味付けはどんな風でした?
お味噌?お醤油?鍋は薄味でポン酢?
日本の新聞は読むところが無くなったなぁ・・と感じていましたが、そういう記事もあるのですねぇ。
Posted by: りら | January 20, 2012 02:27
>りらさん
タラ鍋ですが、家庭によって流儀はちがうと思います。わが家は簡単流でして、昆布でダシを取り、日本酒を適当に投入し、塩で味を調えるだけです。
鍋のダシ汁が沸騰してきたら、アサリ(でなくてもOK。ハマグリもうまかったですよ)を適当に入れてから、アラをぶち込み(笑)、野菜やカマボコなど、お好みのものを投入して煮るだけです。
鍋の中身を食べ終わる頃には、極上のスープが出来上がり。これがまた美味なんですねえ。そのまま味わってもよし、雑炊にしてもよし。日本人に生まれた幸せをしみじみ感じる瞬間です。
> 日本の新聞は読むところが無くなったなぁ・・
同感です。TVの番組表と死亡広告、そして折り込みチラシで命脈を保っているという人もいるくらいです(ぼくはそこまで悪くはいいませんけど(笑))。
Posted by: 薄氷堂 | January 20, 2012 21:46