Daily Oregraph: 2011-08-31 釧路マチ歩き
-あ~、きみきみ、今日はひさしぶりに北大通界隈を歩いたから、写真をいくつかお目にかけよう。
-平日の昼間に北大通を散歩とはいいご身分ですね。
-ばかいえ。仕事の途中で待ち時間ができたから、ほんの30分ほど歩いたのさ。
-ふ~ん。でものっけからヘンな写真ですね。
-ヘンな写真とは失礼な。いつもいってるだろう、美術館の外に美を求めるのがプロというものなのだ。
-で、プロはこんなワケのわからない写真を撮るわけですね。
-そこがマチ歩きの妙味だな。きみも大人になったらきっとわかるさ。
-ちぇっ、この景色のどこが美なんですかね。
-きみみたいに、なんでもけなすのが批評だと心得ちがいしている連中が多くて困るな。人はほめて育てなくちゃいけない。
-やれやれ……この写真はいったい?
-作者みずから作品を語るのはご法度、ヤボの骨頂なのだが、きみみたいにもののわからん男には説明が必要かもしれない。
-ではうかがいましょう。
-今日は蒸し暑かった。まだ遠くにある台風の影響だろう。歩いているとじっとり汗がにじんでくる。いっそ歩くのをやめて喫茶店に避難したくとも、そこまでの時間はない。ああ、疲れるなあ。
-どうもよくわかりませんね。
-その倦怠感がふたつ並んだバケツからユラユラ立ち上っているのに、きみにはそれが見えないとでもいうのか?
-あ、ここはカラオケ屋ですね。
-さよう。あるところにヒマを持てあました主婦がおりました。
-え? なんですか、いきなり。
-まあ、聞きなさい。亭主が職場で上司に叱られながら、泣き泣き仕事をしているというのに、彼女は自転車をこいでいそいそとマチに出かけ、昼間からカラオケに興じるのでした。女というのはしょせんそんなものなのだから、きみも気をつけなくてはいけません。
-よくまあ、そんなデタラメな話を……
-これは?
-つづきものになっているんだよ。さてカラオケをたっぷり楽しんだ主婦は、当然のごとくノドが渇いたな。そこで釧路名物の夕日ハイボールをゴクゴク飲むわけさ。
-まさか、いくらなんでも主婦が真っ昼間からハイボールだなんて。
-だからそこが女の底知れぬおそろしさなのだ。
-ああ、ぼくはだんだん頭がクラクラしてきました。
-これはね、ふと目にしてギョッとしたのさ。真昼の首なし幽霊とはおもしろいじゃないか。
-おや、どうしてCDがぶら下がっているんでしょうね?
-うむ、おれも最初はわからなかった。客寄せの飾りにしては、たった2枚というのが解せないしね。ヒントをあげようか?
-お願いします。
-ここは果物屋さんの店先なんだよ。
-あ、わかった! カラスよけのおまじないですね。でもこんな写真を撮って恥ずかしくないんですか?
-こんどはカモメですか。
-うむ。せっかくおつかいを頼まれて魚屋に来たのはいいけれど、金がないとは気の毒千万だよ。カモメの身にもなってみたまえ。
-あの……ぼく、これで失礼します。
-まあ、待ちなさい。写真ならあと20枚ほどあるんだから。おっと、ほんとに帰っちまった。ヘンな男だよ、まったく。
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