March 10, 2006

高橋物川『宮中賢所物語』を読む

 最近情けないことに、このブログは瀕死のありさま。

 そこでわが師にしてアルコホル依存症の国学者高橋物川先生が最近町内で行った講演の記録をご紹介したい。

 なお先生のお言葉どおりに記録したつもりだが、思わぬ誤記あるやもしれぬこと、あらかじめお断りしておきたい。(文責在薄氷堂)

  (まばらな拍手)

 ええ、こんばんは。講師の高橋です。りっぱな篆刻彫ったり、上手な写真撮ったり、ときどき薄氷堂君のとこにおじゃまさしてもろてます。

 ぼくのタメになる話聞きにきてくれはった、町内の知性あふれるヒマなみなさんには、ほんま敬意を表したい思てますわ。おおきに。

 今夜は賢所(かしこどころ)のことを書いた本に登場する天皇はんのお菓子を、唯性史観の見地から考えてみよやないかと思います。

 賢所いいますのは、ぼくみたいな賢人の集まる場所やのうて、宮中で天照大神の御霊代(みたましろ)としてご神鏡をお祀りするとこです。

 さて今は昔比叡の山に稚児ありけり、いやちごうた、鳴くよウグイス平安京、西暦七九四年のこと-平安京遷都やで、そこで居眠りしてはる畳屋はん、わかりますな。

 桓武天皇は詔を発して、山背国を美称の山城国と改めはると同時に、上賀茂・下鴨両社と松尾社に加階して、従二位を授けはった。従二位というたら、そらあんた、たいしたもんでっせ。

 天皇はんは神道最高の祭祀王にして、神社の総元締やからね、地名変更なんぞあんたお茶の子さいさい、遷宮先の山城国の地祇である三神社を嘉して、昇格なさったわけですな。

 英国王がローマ教皇から離反し、英国国教会の祭祀王となったんは、十六世紀はチューダー朝のヘンリー八世のときやから、とうてい我朝とは比ぶべくもありまへんな。

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 さてぼくは長いこと、内燃機関の研究をうっちゃって、神道総本家である天皇家の祭祀に注意を払ってきたんやけど、つい最近、高谷朝子はんが『宮中賢所物語』を上梓されましたんやね。
 

  
 

author 高谷はんは内掌典として宮中賢所に五十七年間勤められ退職しはった方でな、宮中賢所祭祀について、インタビューに応えるいうかたちで、一書を著されたわけです。長らく窺い知ることができなかった祭祀やから、けだし第一級の文献というべきでありましょう。

 さて宮中賢所には、「御菱葩 (おひしはなびら)」いうて、正月のみの御神饌として供されるお菓子があるのやけど、これは薄い菱形餅と薄い丸形餅、それに牛蒡との三品の組合せで出来たもんやね。


 テキスト添付の図を見てもろたらええと思います。

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 小豆で薄紅色に色付けされた菱形餅(1)に、牛蒡を置き (2)、これらを丸形(楕円)餅の上に置いて(3)、さらにこれを二つ折り(4)にした和菓子ですな。

 もうお分かりやと思いますが、これでピンとこん方には、薄氷堂君のとこに残した、ぼくの「菱紋」の講義を復習してもらいます。

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 白い丸形餅と薄紅色の菱形餅は、なまめかしくも女性の秘所をかたどったものでしてな、 中の牛蒡はね、実はその中にすっぽり包まれたペニスですのや。のし袋の熨斗と同じで、交尾を擬したかたちやね。

 この菓子をまじまじと眺むれば、なんとも艶めいておりまするが、ほんまに上品なもんですわ。まことに正月にふさわしい、万福のホトチン菓子というてよかろうと思いますな。

 
 え、質問ですか。豆腐屋はんやね? ホトチンとはなんですか?-しょうもないこと聞きなはるな。あとで薄氷堂君にでも教えてもらいなはれ。

 ええ、では『宮中賢所物語』の説明を読んでみましょう。

   正月十五日までの日々の御神饌には、お菱二枚に
   お葩(はなびら)を一枚、合わせて三枚を三方に載せ、
   又お菱二枚にお葩を三枚、合わせて五枚の奇数にな
   りますように重ねて、同 じく三方に載せ・・・云々

 さらに、

  御菱葩(おひしはなびら)の日が経って、おすべり
   (お下がりもの)として、人が口に入れるときは、甘
   味噌をつけていただき、本来は甘味噌の上に茹で
    た細牛蒡を一本載せていただく。

 神道祭祀の根本は、口伝の秘儀でありまするから、その本来の意味はとっくの昔に忘れられているやろな。高谷朝子内掌典も、「御菱葩」の本義が豊穣を祈る交尾にあるとは、ご存知ないやろと思います。

 ああ、しかし今日もやね、宮中賢所では、古代より連綿として神々の御前に、一日の休みもなく御神饌が供えられておりますのや。その伝統のありがたさを思えば、ぼくは涙を禁じえぬのであります。……いや、失礼。

 さて古今をつらぬく唯性史観の光に照らすとき、宮中のお菓子の持つ意味が初めて明らかになること、たいがいご了解いただけたんやないかと思います。

 
kawabata_mochi  ところで、正月宮中賢所の御菱葩は、和菓子の「とらや」が宮中御用達やね。宮中の品と同じではないが、この菓子には一般に市販されるのもあって、大体が正月のみの販売で、初釜の茶事に用いられてるようやね。 「とらや」の写真が見当たりまへんのでな、代わりに北山通りにある老舗「川端道喜」製御菱葩の写真を載せておきました。

 こちらも明治維新まで四百年に渡り、御所のご用をつとめはったお菓子屋さんでしてな、第十五代の川端はんの『和菓子の京都』(岩波新書)いう本の第2章には、御菱葩が葩餅(はなびらもち)として詳しく紹介されてますよって、理解の助けになるかもしれまへん。

 ああ、しんど。ほな今日はこれまでとして、二次会に移りまひょか。

  (拍手なし)

 おや、満場ゲキとして声もなく、さてはぼくの話にいたく感動しはったんか……と思たら、みなぐっすり寝とるやないかいな。ほんまにどもならんな。

 そこで泣いとるのはボンやないか。どないしはった。なに、悲しい? ははあ、先生がわが国のありがたい伝統を思うて落涙に及んだとこで、ボンも胸がジーンとして泣かはったんか。えらいもんやなあ。感心、感心。

 はて、ちごうてますか? ここを指さしてどないしますねん。え、そこはぼくの寝床です……?

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May 24, 2005

『雑草博士入門』

 

『たのしい自然観察 雑草博士入門』 岩瀬徹・川名興 著(2001年 全国農村教育協会)

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 一見こども向けの入門書のようだが、たいへん豊かな内容を誇り、年齢を問わず薦められる良書。

 みばえのする花だけを取り上げるのではなく、根から実まで、植物を全体としてとらえようとする姿勢には、一種の感動さえ覚える。

 特に植物の「芽ばえと親の形」に独立した項目を割り当てているところなど、日頃植物図鑑に不満を感じている人々は、思わず膝を打つにちがいない。

 植物は芽ばえ、成長して花を咲かせ、やがて実を結んで枯れる。そのいずれの時期の姿からも、ぼくたちは名前を知りたいと願っているのだが、植物図鑑はその期待になかなか応えてはくれないからである。

 本書のもうひとつの特徴は、写真を最大限に活用していること。写真入りの植物解説書などめずらしくもないようだが、見えるべきところがきちんと見える写真を用いた本には、めったにお目にかかれないものだ。

 むろん十分なサイズの写真を多用しようにも、書物には紙数の制約という大問題がある。まして数千にも及ぶ日本の植物が芽ばえてから枯れるまでの姿をすべて掲載した本など想像もつかない。本書にしてもわずか190頁足らずの、ささやかな書物にすぎないから、雑草博士「入門」と称しているのだろう。

 しかし紙が無理だとしても、ウェブなら可能性はある。この小さい入門書を読んだぼくは、将来ウェブ上に巨大な写真データベースが誕生する日を夢見ている。

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