August 23, 2008

Daily Oregraph: 2008-08-22 ドラフトの話 (3)

Yamanashimaru1 いよいよ計算の世界に入る(ぼくのもっとも苦手とする分野(笑))。

 その前に予備知識としてもうひとつ、船の長さについておさらいしておこう。

 ふつうは LOA(Length Over All 全長)で長さを表すのだが、ドラフト計算では LBP(Length Between Perpendiculars 垂線間長。Lpp と表記されることもある)を用いる。これは船首垂線(満載喫水線と船首材前面との交点を通る鉛直線。以下 FP と略す)と船尾垂線(ふつう舵柄中心と満載喫水線との交点を通る鉛直線。以下 AP と略す)との間の距離をいう。

 なお上の図は『海運実務事典』(昭和38年 日本郵船社内報編集室編)付属の「山梨丸(10,100総トン)縦断面図」をもとに作成した。いまどきこんな船はないけれど、実に美しい船型なので借用させていただいた。詳しい図面がないので満載喫水線(黒と灰色の境目)は不正確であることをお断りしておく。

 ここで前回の計算シートをもう一度見てみよう。このシートでは、無地のセルに数値を入力し、うすい橙色のセルには自動計算の結果が表示されるようだ。

 では計算シートの解読に取りかかろう。

Dsurvey2 まず船首部両舷の喫水を平均し、船尾部のそれも平均、船体中央も同じく平均値を計算する。左右の数値がちがうのは、この場合船が右舷側に傾いていることを示しており、これがふつうだから平均を取るのである。

 次に船首の平均喫水と船尾の平均喫水とを足して2で割るのだが……ここまではなにをしようとしているのか了解できる。

 問題は計算の際に、船首・船尾それぞれの平均値の下に corr というセルがあり、そこに表示された数値を引いたり足したりしたあとの数字をもとしていることだ。もちろん corr は correction だから、なにかを修正しているんだなとはわかるけれど、これはなんだろうか?

 初めての方にもわかっていただけるようご説明するので、どうかご心配なく(笑)。ただし根気は必要である。

 計算シートの数値でわかるとおり、船の喫水はふつう船尾のほうが深い(もし船首・船尾ともに等しければ even keel という。またごく稀ながら、前のめりになることもないではない)。

 船首と船尾の喫水差をトリム(trim)という。上の計算シートの場合、目で見た喫水の差(apparent trim)は、10.090 - 7.770 = 2.32 (m) と表示されている(小数点以下の数字の表示が統一されていないのは、このシートの難点)。これを 「2.32 m の船尾トリム」と表現する。

Yamanashimaru2_3 さて喫水の correction(修正)を理解するため、左の図をごらんいただきたい。ここで LBP(垂線間長) が登場するのである。

 ドラフトを計算するには、船首垂線 FP と船尾垂線 AP 上の喫水値が必要である。ドラフトのマークはいずれもふつうは垂線より内側にあるため、ズレが生ずる。つまり肉眼で喫水を測読するのは赤丸の場所の値だが、計算に必要なのは黄丸の場所の値というわけだ(もちろんドラフトマークが垂線上にあれば修正は必要ない)。

 図では、船首垂線と船首ドラフトマークとの距離を d1、船尾側のそれを d2 とした。

 前述のとおり、ふつう船首よりも船尾の喫水が深いから、船体は後ろに傾いている。図中灰色の四角形で囲まれた船首部分の拡大図解を見れば、修正の必要なことがおわかりになるだろう。

 船首喫水の修正量(stem correction)は次のように計算する(単位はすべてメートル)。
 
  (1) 船首ドラフトマークと船尾ドラフトマーク間の距離
    つまり LBP - (d1+d2) を求める。

  (2) 見た目のトリムを(1)の結果で割り、1 m あたりの
    トリム量を求める。すなわち、
        Trim /{LBP - (d1+d2)}
    トリムを計算する際の注意については、あとで説
    明する。

  (3) それに d1 を掛ければ、d1 の長さ相当分のトリム
    量つまり修正量がわかる。

   
 今回はうかつにも本船のデータを記録してお
   かなかったので、逆算して d1 と d2 を求めてみ
   たところ、d1=1.2 (m)、d2=7.8 (m) だとわかった。

    なお LBP は 193.5 m とわかっている。
 
 実際に計算してみると -0.015089 だからピタリである。船尾喫水修正量(stern correction)もまったく同様の計算だから、(3) で d2 をかければ +0.098081 となり、まずはめでたし。

 さて修正量はプラスするのか、マイナスするのかだが、実は船尾トリム(trim by the stern)か船首トリム(trim by the head)かでちがってくる。船尾トリムの場合は上の図のとおりだから、船首側では修正量をマイナスしなければならない(船尾側では当然プラス)。

 ぼくがウンザリしてきたくらいだから、もうイヤになってきた方もおいでかと思うが(笑)、便利な方法がある。修正量を求めるとき、

  船首側修正量計算時: トリム=船首喫水-船尾喫水
  船尾側修正量計算時: トリム=船尾喫水-船首喫水

 として計算シートを作成しておけば、船尾トリムか船首トリムかは無視してもよく、正負は正しく求められる。いま勉強している例では、船首側マイナス、船尾側プラスである。

 例外は球状船首など船首ドラフトマークが船首垂線 FP の外側つまり前方にある場合だ。この場合は、ドラフトマーク間の距離は d1 分だけ増えて、LBP+d1-d2になることに注意する。また修正量計算時のトリムは船首側・船尾側ともに、船尾喫水-船首喫水とすれば正負を正しく求められる。

 要するにドラフトマークが船首垂線の内側つまり後方にある場合とは符号反転するわけだが、納得していただくためもうひとつの図をごらんいただきたい(もちろん船尾トリムの場合)。

Yamanashimaru5 左の図ではドラフトマークが FP より前方にあり、上の図とは逆に修正量をプラスして FP 上の喫水値を求めなければならないことがわかる。

 かくして修正後の船首喫水と船尾喫水との平均値(Mean)は  8.971495 となることがわかった(もとの計算シートでは小数点第4位まで表示されているが、そのままだと電卓では計算が合わないから、ぼくが第6位まで入れておいた)。

 やっと喫水修正をマスターしたところで、どっと疲れが出たから今夜はこれにて。なんでまたこんな面倒な連載をはじめたものか……(笑)

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August 21, 2008

Daily Oregraph: 2008-08-21 ドラフトの話 (2)

Dsurvey_2 Ship's Office のパソコンをのぞいてみたら、おや、ドラフトサーベイの計算シートではないか。

 そういえば『ドラフトの話 (1)』を掲載したのは今年の2月27日。いやはや、ずいずんサボったものである。

 ちょうどいい材料を手に入れたので、シリーズを再開しようと決心した(えらい!)。上の写真は、これから話を進めるうえで役に立つから、毎回掲載することにしよう。できれば印刷してご参照いただきたいと思う(なお写真の数字は、正しい数値を入力する前のものだから念のため)。

 はっきりいって、おもしろいテーマではない(笑)。しかしこれも海事思想普及のためと、老骨に鞭打って話を進めたい。

 まずは初級編から。

 P-S とF-A というアルファベットを目にしてピンとこないようでは、とても先へ進みようがないから、ここで写真によって確認しておこう。

Vessel P は port(左舷)、S は starboard(右舷)。なんで左舷が port なのかを追求すれば、論文をひとつ書けるくらい奥が深く、興味をお持ちの方は佐波宣平先生著『海の英語』をお読みになるようお勧めしたい。

 一方右舷が starboard なのは、佐波先生によると、   

   この言葉が steer(舵を操る)+board(舷)、つ
  まり「舵器のとりつけられる舷」の意に由来する
  というのは語源学者間の定説として動かし得ない。

 右舷だけをネタに論文を一編というのは無理のようである。

 F は fore(船首。オモテ)、A は aft(船尾。トモ)。P-SとF-Aさえ押さえておけば、船体の位置関係はたいてい表現できる。

 M つまり midship (船体中央)は、ふだんあまり使われないのだが、ドラフトサーベイにおいてはもっとも重要な部分である。

 P-S両舷のF-M-A、合計6ヶ所にあるドラフトマークを測読した結果が、最初の写真の、

   Fwd(P)  7.76  Aft(P)  10.08   Mid(P) 8.760
   Fwd(S)  7.78  Aft(S) 10.10  Mid(S) 8.970

である(単位は m。なお下の写真は別の船のもの)。Fwd はもちろん forward の略。

 疲れたから今夜はこれでおしまい。

 次回はいつになるかわからないが、検索しやすいようにドラフトサーベイのカテゴリーを新設したのでご利用いただければ幸いである。

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May 12, 2008

Daily Oregraph: 2008-05-12

 あいかわらず行きあたりばったり、いつもながら無方針の方針でまことに申し訳ないが、今日は一日一枚を実行できたので、音別・直別探訪編は明日以降に延期することにしたい。

 といったって、世間を驚嘆させるに足る芸術写真が撮れたわけではもちろんないけれど……

080512draftmark ああ、このマークを見るたびに、誰に頼まれたわけでもないのに原稿を催促されているような気がしてならない。いったいドラフト・サーベイ入門編はどうしたのだ?

 いや、ちゃんと手元に教科書も用意しているのだが、なにぶん敵は技術系の分野だけに、雑文科出身の酔っ払いには荷が重いのである。

 やりますよ、いつかきっとやります。絶対に降参なんてしませんとも。

    We shall never surrender.

 -おまえね、たったひとりなのにどうして we なの?

 -たわけ、the royal we を知らぬのか。

080512cpoint そんなわけで、身をやつして作業服を着用に及んだ余は今日も船上チェックポイントを撮るのであった。

 いいなあ、このかすかな微笑、仏様のそれに近いと思う。

 一見おとなしくて、ちょっぴり不器用そうなヴェトナム人が、傲慢な大国アメリカとかつて堂々渡り合ったとは、とてもぼくには信じられない。

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March 16, 2008

Daily Oregraph: 2008-03-16 海水比重を測る

080316hydrometer -1.025?

 -1.024.

 数字だけで会話が成立するプロの世界(笑)。今日は疲れたので、これにて。

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February 27, 2008

Daily Oregraph: 2008-02-27 ドラフトの話 (1)

 最近は雑学クイズがブームらしく、あちこちのTV局で超インテリの高学歴芸能人(笑)が活躍中である。

 クイズ番組だけに罪のない内容なのはいいが、繰り返し見せられるといささか食傷気味で、毎度のことながら民放TV局の発想の貧困さにはガッカリさせられる。他局のマネはしない、という気概を持っていただきたいものだ。

 そうかといって、あまりにもマイナーな、たとえば「趣味のドラフトサーベイ」だの「ドラフトを読まナイト」などという企画はさすがにNHKでも取り上げないだろう。しかし先日申し上げたように、ドラフトサーベイは地味ながらなかなか人気のある検索キーワードなのである。

 ドラフトサーベイ(喫水検定)はもちろん熟練を要するプロの仕事だ。しかし海国日本の市民としては、ほんのサワリ程度でも知識を得る価値があるのではないだろうか。

 よろしい、NHKがボツにするのなら、弱小地方紙のわが社が記事にしようではないか。物理や数学に強い社員がいないのはつらいけれど、そこは教科書の助けを借りて、ボツボツご案内してみたい。

010108dmark_2 まずは論より写真。ドラフトマークの数字の見方からスタートしよう。

 ペンキを塗り重ねたせいでイビツに見えるのは難点だが、数字の8を観察すると、なるほどよく考えられていることがわかる。

 線の太さは2センチだから、それが目盛りの役目を果たしている。数字の高さはかっきり10センチ、数字と数字との間隔も10センチ。

 写真では、氷の下に「3M」が隠れているので、もしぴったり8の一番下のところに水面があるとすると、ドラフトは 3.80メートルである。

 ドラフトマークが表示されているのは、左右両舷それぞれ船首部、中央部、船尾部の3ヶ所だから合計6ヶ所あり、ドラフトサーベイではそのすべてを1センチ単位で測読することになる。

 さてたったこれだけの知識を得ただけでも、港を歩く楽しみがぐっと増すのではないだろうか。

 今度の日曜日には船の回りに黒山の人だかり、みなさんじっとドラフトを読んでいる……なんてことあるわけないよね(笑)。

 次回はいつになるか、どう話を持っていこうか、まったく考えていない。例によって出たとこ勝負である。

 一般のみなさまにとってはあまりお役に立たないと思うが、織田信長の肖像画を見て織田信長とあてる程度の雑学クイズよりは、案外おもしろいかもしれないので、おつきあいいただければ幸いである。

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February 13, 2008

Daily Oregraph: 2008-02-13 ドラフト会議(?)

080213dmark  ココログのアクセス解析では、このブログにたどり着いた方がどんなキーワードで検索されたかを示す「検索ワード/フレーズ」がリストアップされるのだが……過去4ヶ月間のトップは、なんと「ドラフトサーベイ」だから驚く。

 まさかドラフトサーベイが趣味というお方はいないだろうから(笑)、たぶん仕事がらみでお調べになっているのだろう。

 それにしてもなんでぼくのブログを? と不審に思って、「ドラフトサーベイ」を Google 検索してみたら、おお、日本船主協会や日本海事検定協会のサイトと並んで、堂々ベストテン入りしているのであった。いやはや、えらく出世したものだが、Google には見識があるのやらないのやら?

 せっかくベストテン入りしたのだから、今日はドラフトということばについて考えてみたい。

 ぼくが楽しみにしてチビチビ読んでいる佐波宣平先生の『海の英語』(昭和46年初版。研究社)によれば、

 Draught(吃水)は水を引く(draw)が語源である。

  (注:draught は英語綴り。現在一般に通用する
     のは米語綴りの draftである)

 つまり船が「水を引く」「水をくらう」「水を喫う」が原意であるとされるのだが、そういわれたって、わかったようなわからないような気になる方も少なくないと思う。

 COD第8版の定義は次のとおり。
  
  
draw tr. (of a ship) require (a specified depth
        of water) to float in.

  draught n. Naut. the depth of water needed
        to  float a ship

 船の底がつかえずに浮かぶギリギリの水深はどれくらいか、というわけである。ついでに Random House も調べてみたが、似たり寄ったりの定義であった。

 理屈はもっともだけれど、直感的にはちょっとわかりにくいような気もするし、広辞苑の説明のほうがわかりやすいかもしれない。

 船が水に浮く時、船体が沈む深さ。船の最下点
  から水面までの垂直距離。船脚(ふなあし)。

 
Hydrometer それにしてもどうして draw 「(水を)引く」が原意なのか、わかりやすい例はないかと考えて浮かんだのが、先日ご紹介した海水に比重計を投じた写真である。

 写真の部分を拡大して見ると……たしかに水を引いていることが直感的にわかるのではないだろうか。比重計を船に、目盛りをドラフトマークに見立てれば、なるほどと納得していただけるだろう。

 もっとも人あるいはぼくの解釈を我田引水と評するかもしれないが(笑)。

 なお「船脚」という日本語はすぐれた表現である。上の写真の比重計をあなたの美しい脚に見立ててごらんになるといい。

080213departure ドラフト・サーベイについては、しまいこんだ参考書を探してまた記事を書いてみるつもりだが、善良なる市民のみなさまにとってはひどく退屈だろうと思う。

 やはりドラフトマークの数字をみつめるよりも、船は出港する姿がもっとも美しい。

 芋焼酎の力を借りなくとも、手持ちで1/4秒、空を舞うカモメはさすがに白い筋としか見えないが、なんとか写ってくれた。この荒波の中でドラフトを測読するよりも十倍はラクなのである(笑)。

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January 07, 2008

Daily Oregraph: 2008-01-07

080107hydrometer  以前もちょっとふれたけれど、ドラフト・サーベイ(draft survey =喫水検定)というのは、アルキメデスの原理を応用して、荷役前後の喫水差により貨物の荷役量を求める検査のことである。

 正確に計算するためには、海水バラストなど貨物以外に積まれているものの重量を測定するのはもちろんだが、船が浮かんでいる海水(または淡水)の比重を測定しなければならない。

 詳しいことはぼくに説明を求めても無理だから、頭のいい方にお聞き願うとして(笑)、海水を汲み上げる容器はすでにご紹介した。

 しかし肝腎の比重計がいっしょに写っていないのは残念だった。やっと機会がめぐってきたのでパチリ(画像がボンヤリしているのは手ぶれ少々+後ピンのせいかな?)。

 さてこいつを茶室に置いて花を活けるのも悪くはないけれど、やはりどんなものでも本来の機能を発揮しているときがもっとも美しいのかもしれない。

 こんな容器のどこが美しいのだというお方もおいでだろうが、埋もれた美を見いだすにはいささかの修練とたくさんの芋焼酎(?)が必要なのだ。美術館に通って保証付きの美を確認するのでは芸がなく、ただ権威に従っているだけといわれてもしかたがない。

 フンと鼻で笑うあなただって、もしこいつが「体温計をくわえたヴィーナス」(笑)というタイトルでモダン・アート展に展示されていたとしたら、きっと感心してながめるにちがいない。

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