Daily Oregraph: 2008-08-22 ドラフトの話 (3)
いよいよ計算の世界に入る(ぼくのもっとも苦手とする分野(笑))。
その前に予備知識としてもうひとつ、船の長さについておさらいしておこう。
ふつうは LOA(Length Over All 全長)で長さを表すのだが、ドラフト計算では LBP(Length Between Perpendiculars 垂線間長。Lpp と表記されることもある)を用いる。これは船首垂線(満載喫水線と船首材前面との交点を通る鉛直線。以下 FP と略す)と船尾垂線(ふつう舵柄中心と満載喫水線との交点を通る鉛直線。以下 AP と略す)との間の距離をいう。
なお上の図は『海運実務事典』(昭和38年 日本郵船社内報編集室編)付属の「山梨丸(10,100総トン)縦断面図」をもとに作成した。いまどきこんな船はないけれど、実に美しい船型なので借用させていただいた。詳しい図面がないので満載喫水線(黒と灰色の境目)は不正確であることをお断りしておく。
ここで前回の計算シートをもう一度見てみよう。このシートでは、無地のセルに数値を入力し、うすい橙色のセルには自動計算の結果が表示されるようだ。
では計算シートの解読に取りかかろう。
まず船首部両舷の喫水を平均し、船尾部のそれも平均、船体中央も同じく平均値を計算する。左右の数値がちがうのは、この場合船が右舷側に傾いていることを示しており、これがふつうだから平均を取るのである。
次に船首の平均喫水と船尾の平均喫水とを足して2で割るのだが……ここまではなにをしようとしているのか了解できる。
問題は計算の際に、船首・船尾それぞれの平均値の下に corr というセルがあり、そこに表示された数値を引いたり足したりしたあとの数字をもとしていることだ。もちろん corr は correction だから、なにかを修正しているんだなとはわかるけれど、これはなんだろうか?
初めての方にもわかっていただけるようご説明するので、どうかご心配なく(笑)。ただし根気は必要である。
計算シートの数値でわかるとおり、船の喫水はふつう船尾のほうが深い(もし船首・船尾ともに等しければ even keel という。またごく稀ながら、前のめりになることもないではない)。
船首と船尾の喫水差をトリム(trim)という。上の計算シートの場合、目で見た喫水の差(apparent trim)は、10.090 - 7.770 = 2.32 (m) と表示されている(小数点以下の数字の表示が統一されていないのは、このシートの難点)。これを 「2.32 m の船尾トリム」と表現する。
さて喫水の correction(修正)を理解するため、左の図をごらんいただきたい。ここで LBP(垂線間長) が登場するのである。
ドラフトを計算するには、船首垂線 FP と船尾垂線 AP 上の喫水値が必要である。ドラフトのマークはいずれもふつうは垂線より内側にあるため、ズレが生ずる。つまり肉眼で喫水を測読するのは赤丸の場所の値だが、計算に必要なのは黄丸の場所の値というわけだ(もちろんドラフトマークが垂線上にあれば修正は必要ない)。
図では、船首垂線と船首ドラフトマークとの距離を d1、船尾側のそれを d2 とした。
前述のとおり、ふつう船首よりも船尾の喫水が深いから、船体は後ろに傾いている。図中灰色の四角形で囲まれた船首部分の拡大図解を見れば、修正の必要なことがおわかりになるだろう。
船首喫水の修正量(stem correction)は次のように計算する(単位はすべてメートル)。
(1) 船首ドラフトマークと船尾ドラフトマーク間の距離
つまり LBP - (d1+d2) を求める。
(2) 見た目のトリムを(1)の結果で割り、1 m あたりの
トリム量を求める。すなわち、
Trim /{LBP - (d1+d2)}
トリムを計算する際の注意については、あとで説
明する。
(3) それに d1 を掛ければ、d1 の長さ相当分のトリム
量つまり修正量がわかる。
今回はうかつにも本船のデータを記録してお
かなかったので、逆算して d1 と d2 を求めてみ
たところ、d1=1.2 (m)、d2=7.8 (m) だとわかった。
なお LBP は 193.5 m とわかっている。
実際に計算してみると -0.015089 だからピタリである。船尾喫水修正量(stern correction)もまったく同様の計算だから、(3) で d2 をかければ +0.098081 となり、まずはめでたし。
さて修正量はプラスするのか、マイナスするのかだが、実は船尾トリム(trim by the stern)か船首トリム(trim by the head)かでちがってくる。船尾トリムの場合は上の図のとおりだから、船首側では修正量をマイナスしなければならない(船尾側では当然プラス)。
ぼくがウンザリしてきたくらいだから、もうイヤになってきた方もおいでかと思うが(笑)、便利な方法がある。修正量を求めるとき、
船首側修正量計算時: トリム=船首喫水-船尾喫水
船尾側修正量計算時: トリム=船尾喫水-船首喫水
として計算シートを作成しておけば、船尾トリムか船首トリムかは無視してもよく、正負は正しく求められる。いま勉強している例では、船首側マイナス、船尾側プラスである。
例外は球状船首など船首ドラフトマークが船首垂線 FP の外側つまり前方にある場合だ。この場合は、ドラフトマーク間の距離は d1 分だけ増えて、LBP+d1-d2になることに注意する。また修正量計算時のトリムは船首側・船尾側ともに、船尾喫水-船首喫水とすれば正負を正しく求められる。
要するにドラフトマークが船首垂線の内側つまり後方にある場合とは符号反転するわけだが、納得していただくためもうひとつの図をごらんいただきたい(もちろん船尾トリムの場合)。
左の図ではドラフトマークが FP より前方にあり、上の図とは逆に修正量をプラスして FP 上の喫水値を求めなければならないことがわかる。
かくして修正後の船首喫水と船尾喫水との平均値(Mean)は 8.971495 となることがわかった(もとの計算シートでは小数点第4位まで表示されているが、そのままだと電卓では計算が合わないから、ぼくが第6位まで入れておいた)。
やっと喫水修正をマスターしたところで、どっと疲れが出たから今夜はこれにて。なんでまたこんな面倒な連載をはじめたものか……(笑)











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