美瑛~旭川間は約24キロ。
旭川の中心街は混んでいるだろうと判断して、新神楽橋を渡り大雪通へ。途中ちょっと寄り道して飲み物などを仕入れてから、秋月橋を通過して国道40号線に入り、ガソリンを補給して士別をめざす。
旭川市はこれで二度目なのだが、前回は仕事をすませてトンボ返り、今回も時間の余裕がないためほとんど素通りになってしまった。全国の旭川ファンのみなさまにはまことに申し訳なく、次の機会にはぜひ市内をじっくり見物したいと思っている。
見物といっても、マイナー路線が売り物の当社としては、例の動物園などはどうでもよく(笑)、古くから開けた街だけに、市内のところどころにたぶんまだ残っているであろう古い建物の取材が目的……実は前回タクシーの窓から目をつけていたのである。
旭川より北はぼくにとって未知の土地である。とにかく北海道は広く、知らない土地のほうが多いのだ。
旭川市を抜けると比布(ぴっぷ)町……正直いって比布町という町の存在はほとんど無意識下に沈んでいたのだが、道路標識に「比布駅」の名をみつけたぼくは、ブラックホールに引き寄せられるように、駅へ向かってハンドルを切ったのであった。
たいして用事もないのにフラフラと立ち寄る-これを日本語では「縁」があるというらしい。
ピンク色、いや「スキーとイチゴの比布町」とあるからにはイチゴ色に塗られた駅舎をよく見ると、案外クラシックなデザインの建築であることがわかる。
まだ昼食には少し早いから入りはしなかったが、かつて事務所だった部分は軽食喫茶になっていた。
待合室をのぞくと、驚いたことに、列車を待つ若者がひとり。
いや、駅に乗客がいるのはあたりまえなのだが、ローカル駅ではめったにお目にかかれないからビックリしたのである。
いつもシナチクの入らぬラーメンみたいな写真ばかり撮っているから、ついうれしくなってしまった。

やはり縁があったのだろう、ホームへ出るとまもなく旭川方面から列車が滑りこんできた。
こうこなくちゃいけない。
東京の山手線とはちがって、めったに列車はこないのだから、なんとなく胸が高鳴り、まるで子どもみたいなものである。
列車が停車したので、さきほどの若者が乗るのだろうと見れば、ひとりではなく二人づれだったらしい。
先日さとう公彦さんにこの写真をお見せしたところ、ああ、これは登山客ですね、とのこと。
二人の乗った列車が名寄方面へ走り去るのを見送りながら、普通列車、昔でいう鈍行に乗って旅行したころを思い出す。
ぼくはよそよそしい飛行機やお上品な豪華客船の旅がほんとうの贅沢だとは思わない。いまや最高のセイタクとは、時間に縛られず、コッペパンをかじりながら(笑)鈍行で旅をすることではないだろうか。
盛岡から青森まで、英語よりも難解な土地の方言を聞きながら列車に揺られたこと、二重連の蒸気機関車に牽引された函館から釧路まで通しの鈍行では、途中夜明けを二回迎えたこと……もちろん三十年以上も昔の話だが、そんなことをふと思い出したのである。
比布駅前。
美瑛の駅前とはえらいちがいだが、こちらのほうがぼくにはしっくりくる。
時間さえたっぷりあれば、せっかく縁あって立ち寄ったのだから、町内を歩いてみたかったのだが、ふたたび国道40号線に戻ることにした。
ところがここで道に迷い、どこをどう走っているのかわからなくなってしまう。太陽の位置から方角を判断してやっと国道に復帰するまでにかなりの時間を要してしまった。
塩狩峠ではちょっと休憩しようかどうか迷ったけれど、結局素通りして剣淵町の道の駅でトイレを借りた。この町は「絵本の里」を売り物にしているらしいが、このときはどうして絵本なのかさっぱりワケがわからなかった。番外編でご紹介するつもり。
剣淵を過ぎるとまもなく士別市である。
士別駅の駅舎はバカバカしいほど横に長く、どうにも写真の撮りようがないのには閉口した。
いったいどうしてああいう設計をしたものか、首をひねらなければ全体を見渡せないほど細長いのであった。やむをえず一部だけ撮ったのがこれ。
士別駅の内外に人影はほとんどなく、駅舎は堂々たる長さを誇るというのに、人口(約2万3千)ではさして変わらぬ富良野の駅よりもずっと活気がないという印象を受けた。やはり観光客の有無がものをいうのだろうか。
それでも Kiosk 代わりに小さな売店があるし、「そば」のノボリを見てホッとする。
ろくに街も歩いていないのに第一印象に引きずられてはいけないと承知しつつも、ついさいはての駅みたいな写真を撮ってしまう。
宗谷本線の終着駅は稚内だから、どうか誤解なきよう。
やはり縁あって立ち寄った士別の街もまた、時間不足のため歩くことができず、不満が残る。
金が欲しくないといえばウソになるけれど、もっと欲しいのは時間である。
大学で貧乏学を専攻したぼくはパンをかじりながら車中泊をしても耐えられる男だから、いつか北海道をゆっくり回ってやろうと思う(さすがに今回のように連れがいてはムリだろうけど(笑))。
せめてもの記念に、駅前のソバ屋さんで昼食をしたためることにした。
手打ちソバをおいしくいただきながら、さてこれからどうしようかと思案した。
名寄まで北上して東に進路を転じ、興部経由で今夜の宿泊地である紋別をめざすか、それとも士別からこのまま東へ向かい、滝上町経由で紋別へ行くか、どちらのコースもたいして距離は変わらぬだけに、おおいに迷ったのである。
結局士別滝の上線(道道61号線)を通って紋別へ向かい、あこがれの名寄市はまたの日に訪れることに決定した。
(2008年9月5日 撮影)
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