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August 05, 2022

Daily Oregraph: 翻訳家同情論

 本日の最高気温は20.5度。曇り時々晴れ。

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 少し風があったので、窓を開けると室内は肌寒いくらいであった。

 『白鯨』をやっと読み終えた。ふだんよりもずいぶん時間がかかったのは、たいへん読み疲れする文章のせいである。手元にある古い翻訳には明らかな誤訳がいくつかみつかったけれど、全体的には当然ぼくの頭の出来のほうが悪いから(笑)、苦労してお付けになった詳しい訳注のお世話にもなったし、教えられるところの方が圧倒的に多かった。

 それにしてもよくもまあこういう面倒な小説の翻訳を引き受ける方がいるものだと思う。知識経験のない分野については、いくら辞書をひっくり返してもピンと来ない部分は残るもので、専門の人からあれこれ突っ込みが入ったとしてもしかたがない。それにかなりできる方でも何かの拍子にふだんならしない誤読をすることはあるものだ。

 しかしプロの翻訳家としてはわからんではすまされないから、わからなくとも期限内になんとか原稿用紙を埋めなければならないのである。だからまちがいの一つや二つあったからといって責めるのは酷というものだ(もちろん全体にあまりにも低レベルな翻訳は話が別)。

 それにふつうはだれでも早く先を読みたいものだから、なんだかよく意味の取れない文章が混じっていたとしても、いちいち原文にあたって確かめるような閑人はいないだろうし、第一そんなことをされた日にはたまらない(笑)。意地の悪い人に鬼の首でも取ったようにまちがいをさらされては、世に翻訳家のなり手はいなくなるにちがいない(※付記参照)。

 『白鯨』の文章はかなり手ごわく、この大作を最後まで翻訳するだけでもご立派、ようおやりになりましたなあ、先生にエイハブ船長の執念が乗り移ったにちがいありませぬ、と感心しましたよ。

 翻訳についてはともかく、『白鯨』が天下の奇書の一つであることはまちがいなく、むずかしい理屈をこねなくとも「重厚な」冒険小説として十分楽しめると思う。鯨と戦う場面の描写からはすさまじい迫力が伝わってくる。素直にハラハラドキドキを味わうのもまたよし。

 さて苦闘の結果、ようやく積ん読本が一冊減った。次をどうしようかまだ思案中だが、その前に軽い推理小説でも読んで一息つこうと思っている。

 付記:結局そうして誤りを含む翻訳書が世にまかり通ってしまうのだから、よりよい翻訳を実現するには、一人でもいいから協力者が必要だと思う。人によって目のつけどころがちがうので、思わぬミスを防げる可能性が高いからである。老練の船長といえども、年下の一等航海士の助言に耳を傾けるべきときはあるものだ。

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Comments

誤訳と言えば、邦画「フィッシュストーリー」の
「僕の孤独が魚だったら」を思い出します。

Posted by: しょうちゃん | August 06, 2022 03:07

>しょうちゃんさん

 聖書から便所の落書きまで、標準語から各地方言まで、古今の哲学から歴史地理まで、法律から料理まで、バッハからロックまで、よほど知識に自信のある方でなければ外国語の正確な翻訳はむずかしいと思います。

 しかしそんな人は鉦と太鼓で探してもめったにいませんから(笑)、あまり要求水準が高すぎては引き受け手がいなくなり、世の中が困ります。翻訳家の多少のミスはゆるしてあげるべきでしょうね。

 ただし広い世の中には自信過剰というか大胆不敵というか、「えっ、いくらなんでもそれはないだろう」というトンデモ訳を平気でする人もいるようです。それでも鼻高々なんだから、ある意味では幸せな人なのかも知れませんが。

 結局時間のかかるわりには報われないので、君子翻訳にかかわらずが一番かと。

Posted by: 薄氷堂 | August 06, 2022 09:16

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