Daily Oregraph: 金貨を囓る話
本日の最高気温は9.9度。雨。寒いし雨降りだし、とても外出する気分にはなれなかった。
ネタがないので本日は Bleak House から金貨を囓る話でも……
上の挿絵をご説明すると、右側の少年は道路清掃人(crossing-sweeper)のジョー(Jo)君、左側の顔をベールで覆った婦人は正体不明の女性である。
道路清掃人というのは道路を渡る通行人の前を箒で掃いてチップをもらったりする、浮浪児に毛の生えたような少年である。ゴミやほこりだけでなく、馬車の時代だから道路には馬糞がたくさん転がっていたにちがいない。こいつは雨が降って水たまりに混じっても厄介だが、放っておくと乾燥して風に舞うから始末に負えないのである。
謎の婦人は入り組んだロンドンの裏町のいくつかの場所を指定して、駄賃をたんまりはずむからといって、ジョー君に道案内を依頼する。上の挿絵はある墓地の閉ざされたゲートの外から、ジョー君が「その人の墓はあそこ」と指さしている場面である。わざわざこんな場所に案内させるとは怪しい女性だが、読者にはなんとなくその正体の見当がつくようなつかないような、思わせぶりな書き方をしているのは作家の手際である。
さてこの小僧、'But fen larks, you know! Stow hooking it!' てなことをいうのだが、ベールの女性には意味がまるで通じない。教育のあるエゲレス人にわからんものが日本人のぼくにわからなくても別に不名誉ではないけれど、せっかくだから調べてみた。ちっとも受験対策にはならないが(笑)、ヒマつぶしだと思っておつきあいいただきたい。
'fen larks' というのは、こどもたちの遊びの最中にだれかがなにか(たぶんルール違反を)しようとするのを「それはダメ!」と制止することば。'stow' は 'stop' で、'hook it' は「逃げる、ずらかる」という意味だから、 結局「いいかい、ズルしちゃだめだぜ。(駄賃をくれずに)逃げようなんてするなよ!」になるだろう。この中では 'hook it' は比較的よく使われるから、覚えていて損はないと思う。
案内を終えたジョー君は約束どおり駄賃をもらえたのだが、ベールのご婦人が渡したのはなんと一枚の金貨であった! 一人になった彼はまず金貨の端っこを囓って金であることを確かめ、なくさないようにそいつを口中に含んで、貧民窟に戻る。そして建物前の通りのガス燈の下で金貨を口から取り出して眺め、もう一度囓って本物であることを確かめるのであった。
金貨とはソブリン金貨(1ポンド=20 シリング=240 ペンス)だから、貧乏人にとっては大金である。ジョー君はそれから部屋代を支払ったり、就寝中に一部を盗まれたりして、その後警官に職質されたときの所持金は半クラウン貨2枚というから5シリング相当であった。
ぼくの推定では5シリングは現在の4~5千円相当だが、警官の目には貧乏人がそんなに金を持っているのは怪しいと映ったのである。事実を申し立てても作り話としてまるで相手にされないし、まったく哀れを誘う話ではないか。
そういえば金貨ではなく五輪の金メダルを囓ったどこぞの市長さんがいたっけ。人様の大事な記念の品を囓るとは下品もいいところだが、それだけではない、本物の金であるかどうか囓って確かめたとしたら(笑)二重の無礼といえよう。
ジョー君の場合は夢のような幸運がとても信じられず、心配のあまり金貨を囓ったんだから、その気持はよくわかる。しかし日本国の大都市の市長さんがあれではなあ……
Comments
>しかし日本国の大都市の市長さんがあれではなあ……
ほんと、まあ情けないことですね。あきれ返ってしまいましたよ、あの時は…
でも、そこから新幹線で1時間ほどの大都市の市長さんもたいがいですよ。なんてたって、役所に出てこないんですから。
なんでも、今月に入ってから7日にし出勤してないようですよ。今月までも…然り…ですが。
Posted by: 三友亭主人 | October 23, 2021 07:46
>三友亭さん
いまやまともな政治家は金貨よりも貴重みたいですね(笑)。
悪事やり放題の某政党などは反社集団さながらですし、ほかにもゴロツキ、チンピラまがいの連中の多いことといったら!
今度の選挙では少しでも多くの不良品を処分したいものです。
Posted by: 薄氷堂 | October 23, 2021 21:41