Daily Oregraph: サンマを食う
本日の最高気温は21.0度。曇りのち雨。いやに暖かい。
たかがサンマの分際で結構なお値段だが、年にいっぺんくらいはよかろうというのでお買い上げ。さすがに一尾100円のものとは一味ちがってうまかった。
さてサンマとはなんの関係もないけれど、『バーチェスターの塔』を読了したので、ぼくの読んだテキストの解説者ハーラン・ハッチャー先生(Harlan Hatcher, 1898-1998)の文章に従って、作者についてメモしておこう。
アントニー・トロラップの母親は50歳にして文筆に手を染め、その後25年間に114冊を書き上げたという、ちょっと信じられぬ女性である。朝は家事の始まる前の4時に起き、日課として何頁と決めてコツコツ書き続けたというから驚く。アントニーはこの母の血を引いていたわけである。
経済事情が許さなかったため大学へ進学できなかったアントニーは、ロンドン郵便局にわずか年収90ポンドの職を得た(薄給である)。『バーチェスター』の主要な登場人物はオクスフォード学閥に属するから、本人はよほどオクスフォードへ行きたかったのだろう。
トロラップはあらかじめ週にこれだけ月にこれだけの語数を書くと決め、日記にその日の成果を記録した。生涯朝の5時半に起きて、コーヒーを飲んでから3時間執筆する。15分間に250語というスピードである。その後郵便局の勤めに出たわけだ。
彼は仕事柄出張が多く旅に明け暮れた。しかし汽車に乗れば車内で、船に乗れば船内で、いつもどおり執筆を続けたのである。小説を一編書き上げてまだ時間が残っていればすぐさま次の作品に取りかかったというのは、職人芸としても信じられない話だ。
自伝に創作の秘密をあまりにも正直に書いたため、機械的に文章を書く男として、当時批評家からは不評を買ったらしい。漱石が「トロロープは、汽車に乗っておって一時間に何ページとか書く」と書いたのは、たぶんトロラップの自伝を読んだのだろう。また「あまり傑作もできないようであった」と付け加えたのは、当時の批評を意識したのかもしれない。
さらに出世作となった『バーチェスター』は、調子よく万事めでたしめでたしで話が終るし、ときどき作者が表面に出すぎたり、たまに月並調が表われたりするところが漱石先生のお気に召さなかったのかも知れない。
しかし波瀾万丈の大活劇が展開するわけでもないのに、決して読者を飽きさせない手際は見事だと思う。物語は水が流れるように進行し、登場人物はそれぞれの性格に従って自然に行動する。機械的に書いたなどという印象はまったく受けない。執筆スタイルと作品の出来とはたいして関係ないという見本かも知れない。
全体に話のうまいおじさんが毎晩夕食後に語るのを、ワインを啜りながら聴いているような心地よさがあるから、いまだに熱心な読者が少なくないこともうなずける。図書館でみかけたら、だまされたと思って(笑)お読みになってみるといいだろう。
次はどうするか少し迷ったが、時代遅れの19世紀小説愛好者としては、ひさびさにディケンズに戻って『荒涼館(Bleak House)』を読むことにした。大長編だからかなり時間がかかると思う。
Comments
秋刀魚はねえ~
去年から食べてないんですよ。
昔から、宮城の方から送ってくれた秋刀魚しか食べてなかったんですが、去年は不良で送ってこなかったんですよ。そんでもって、今年も…最近やっと取れ始めたみたいなんで、期待してるんですが。
かといって、関西の辺りで売っている秋刀魚ではちょいとって感じなので…
Posted by: 三友亭主人 | October 02, 2021 07:38
>三友亭さん
このサンマですが、ごらんのとおり「大」とはとても申せません。「中」ですね。豊漁の年なら、このサイズで一尾100円でしょう。
ものの値段は需要と供給の関係で決まるという原則は、サンマを見ればよくわかります(笑)。かつてサンマは貧乏人の味方だったんですけどねえ……
Posted by: 薄氷堂 | October 02, 2021 09:55
薄氷堂さん、こんにちは。
秋刀魚、高いですね!
え、地元北海道の秋刀魚が500円越えですと!
そりゃこちらでも高いわけだ。
こちらで流通するのは北海道産が多いですよ。
今度は冷凍秋刀魚でも食べるつもりです。
Posted by: 只野乙山 | October 06, 2021 14:15
>只野乙山さん
ほんとに困ったものです。バカにするわけじゃありませんが(笑)、サンマですよ、サンマ。うまい棒がいっぺんに五倍以上値上がりして、子どもたちが泣きべそをかいているようなものです。
Posted by: 薄氷堂 | October 06, 2021 22:50