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July 07, 2021

Daily Oregraph: フリーク捕物帖

 本日の最高気温は18.2度。曇り。

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 こんなチラシが配られた。厳島神社の例大祭ではコロナ禍のため神輿行列を中止するけれど、疫病退散祈願の花火を打ち上げるらしい。「近隣のグラウンド」といえば旧東栄小学校だろうが、ご迷惑どころか楽しみにしている。どうか派手にやっていただきたい(笑)。

 本日の捕物帖は『覆面の下宿人(The Veiled Lodger)』だが、これは推理物というより人情噺に近いような気がする。あらかじめお断りしておくけれど、決しておもしろい記事ではないから(笑)、ご興味のない方は素通りしていただいたほうがいいと思う。

 一応この短編の内容をざっとご紹介しておこう。

 かつてあるサーカスの一座で起こった出来事だが、檻から抜け出したライオンが団長夫妻を襲ったとみられ、団長は死亡し、団長夫人は一命を取りとめたものの大怪我をして二目と見られぬ顔になってしまった。この事件に関する夫人の告白を聞いたホームズが一種の人生相談に乗るという珍しい作品である。

 さて『ホームズの事件簿』の翻訳(新潮文庫版)がどうしても本棚に見あたらないので、ネットの原文対照無料翻訳をありがたく参照しているのだが、先日のお化けクラゲ事件(『ライオンのたてがみ』)に引きつづき、大きなまちがいと思われる箇所があったので、それについて考えてみたい。

 誤解のないよう最初に申し上げておくが、ぼくごとき凡才に他人のまちがいをあげつらう資格などあるはずもなく、いわば明日はわが身(笑)、要するに人様の誤りから教訓を得ようというわけである。辞書のみが頼りという学生諸君にはきっと参考になるところがあると思う。

 ネタばれになってしまうが……粗暴な団長に虐げられていた夫人は団員の一人と恋仲になり、その男とともに夫の殺害を企てる。男は釘を植えた棍棒で団長を撲殺し、犯行をライオンの仕業にみせかけるため夫人が檻の戸を開けると、血の匂いを嗅いで凶暴化したライオンが飛び出して夫人を襲う。ところが男は夫人をすぐに救おうとせずに尻ごみしてしまったから、夫人は大きな失望と怒りとを味わうことになる。

 しかし一度愛情を抱いた男を憎んでも憎みきれないのが女心で、夫人は「その後彼には一度も会っていませんし、うわさを聞いてもいません。ひょっとしたら彼をあんなに憎んだのは私のまちがいだったんでしょうね」といい、つづけて

 'He might as soon have loved one of the freaks whom we carried round the country as the thing which the lion had left.'

というのが「憎んだのがまちがいだった」理由である。ぼくのまずい解釈で申し訳ないが、「ライオンにこんな(顔)にされちまった女を相手にするくらいなら、一緒に旅回りする片端ものに惚れたっておかしくありませんもの」というほどの意味だろう。

 ぼくの読んだ翻訳は無断転載禁止になっているから元の文章をほんのちょっとだけ書き換えると、「彼はライオンが傷つけて残したこの私より、むしろ旅回りについてくる熱心なファンの一人に恋したかもしれません」となる。

 問題は「むしろ」以降である。たしかに freak には「何かに熱中・熱狂する人」という意味があるけれど、どさ回りのサーカス一座の追っかけをする熱狂的ファン(しかも複数)なんて一体いるものだろうか? 

 ここでいう freak は、見世物にする不具者などをいう。「片端もの」でも十分に差別的な表現だから非常に気が引けるけれど、原文のニュアンスは「化物」に近いと思う。私の顔はそれよりも醜くなってしまったから、あの人に捨てられたのも無理はない、という悲痛な言葉なのである。熱狂的追っかけ女性ファンがいると仮定して、彼女たちの普通(あるいはそれ以上)の容貌と比較したって、この痛切さは表現されないだろう。

 お化けクラゲ事件の回では「辞書を引こう」と書いたけれど、それだけでは十分ではない。もう一つ大切なのは「常識」である。それがないと、せっかく辞書を引いても単語の意味を取り違えることがあるからだ。もちろん他人事ではなく、ぼく自身も気をつけなくてはならない。

 今回の freak ですぐに思い出したのは、こどもの頃見世物小屋で見た、足に奇形のある女性である。本当の奇形なのかどうかは不明だが(作りものかも知れない)、足が動物の蹄状になっており、それで弓に矢をつがえて放つのである。ひどくショックを受けた覚えがあり、今どきそんな見世物が興行できるとはとても思えない。

 世の中にムダな経験などめったにないものだ。辞書や参考書を捨てて町へ出ることも時には必要だと思う。しかし……町へ出すぎて浮かれないようにね(笑)。

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