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June 24, 2021

Daily Oregraph: 病は気から捕物帖 後編

 本日の最高気温は15.6度。曇り。

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 ヤマブキショウマ。わが裏庭はほとんど自然公園である。

 -さて前回では依頼者の親友ゴドフリー君が世界一周の船旅に出ているというのは真っ赤なウソで、ほんとうは実家の敷地内にある建物に身を隠しているところまでわかりました。それにはよほどの事情があるはずですが、親分はどうお思いになりますかな?

 -うむ、息子がいると知られちゃ困るってんだから、そうむずかしい謎じゃありますまいよ。息子が悪事を働いたんで取っ捕まったら牢屋に送られるか、それとも否応なく隔離されるような病気にかかったかのどちらかじゃありませんか。親父にしてみれば、余計な詮索をするジェームズさんが邪魔でしょうがねえんでしょう。

 -さすがは親分、ホームズ探偵もそう考えましてね、悪事を働いたというのは無理があるから、精神病か伝染性の病気のどちらかだろうと推理します。

 -なるほど、精神病患者を座敷牢に閉じ込めることはありましょうね。しかしジェームズさんに一瞬でも姿を見せたからには、座敷牢の線はありますまい。とすりゃあ伝染病なんだろうが、闇の中を駆けて姿をくらましたんならコロリとは思えねえ。どんな病気かはとんと見当がつきませんね。「白面の兵士」てえくらいだから、顔が真っ白だったてえのが手がかりなんでしょうけど……

 -さよう、たしかにそこが問題なんですけど、顔が白いといわれても素人にはちとわかりにくい。ネタばれになってしまいますが、八五郎さんに謎を解いてもらいましょうか。

 -それがね、ハンセン病だてえんですよ。あっしにはまったくわからねえから藪井竹庵先生に教えてもらったら、医術が進歩していなかった当時は、恐ろしい伝染病だてんで患者は引っ立てられて隔離施設へ送られ、人間扱いされずひどい目に会ったそうです。ところが実際はめったに感染するような病気じゃなくて、今じゃ治療法もみつかっているそうですぜ。

 -ドイルさんはお医者さんだから相当の知識をお持ちだったはずですが、この小説を書いた頃はまだハンセン病についてはよく知られていなかったんですな。

 -先生のおっしゃるとおりで、病気の正体さえわかっていれば患者がひどい扱いを受けることもなかったにちがいねえ。戦場で負傷したゴドフリーさんは、それと知らずにハンセン病患者の収容施設に命からがら迷い込み、そこのベッドに倒れ込んで眠っちまったんですよ。その後顔の皮膚にハンセン病に似た症状が現われたもんだから、家族はてっきりそうだと思いこんだのだが、竹庵先生のお話だと、万一感染したとしても半年や一年足らずのうちに発症するわけはなく、まず三年はかかるはずだてえんです。

 -するってえと、ただの皮膚病だったというわけか。

 -そうなんですよ、親分。幸いホームズ探偵が皮膚病のえらい先生を連れていったからハンセン病の疑いは晴れたんですが、無知てえのは実に怖いもんじゃありませんか。あっしなんぞはまるでものを知らねえから、ちと学問しなくちゃいけねえ。

 -いやあ面目ねえが、おれも八のことはいえねえ。しかしこれで納得したよ。息子を世間から隠して離れに閉じ込めておきながら、母親が平気でいられるはずはねえ。戦友を泊めて一緒に息子の話をしようなんぞという呑気な気持にはとてもなれめえよ。

 -そうでしょう、親分。実はもっとおかしいことがありやしてね、ゴドフリーさんの姿を見かけた翌日、頑固親父はなぜかジェームズさんがもう一晩泊まることを許した上に、息子の潜む小屋がみつかるかもしれねえというのに、敷地内を自由に歩かせてるんですよ。

 -なるほどそいつは妙だな。道理で先生が読んでいてしっくりこねえとおっしゃるわけだ。

 -どうもこの『事件簿』シリーズ、全体に出来がよいとは申せませんな。残りはあと四編、正直いって拙者も少々疲れたでござる。

 そこへフラリと現われたのは……

 -おやみなさんおそろいで。先生、あたしを仲間はずれとはひどいじゃありませんか。

 -はてな。薄氷堂さん、あんたお留守じゃなかったのですか?

 -へへへ、ここのブログ主の腕前じゃ、とてもセリフだけで四人書き分けるのは無理だと思いましてね、今回あたしは遠慮したという次第。

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