Daily Oregraph: 話がヘンだよ捕物帖
本日の最高気温は14.9度。晴れ。
気温は上がらなかったけれど、眠たくなるような穏やかな天気であった。
-ねえ親分、この小説ですがね、どうも解せねえ。
-ああ、『三破風館(The Three Gables)事件』だな。どこが解せねえ?
-つまりですね、犯人が余計なことをしなけりゃ、こんな大事にはならなかったはずなんです。
-うむ八、そこに気がついたか。おめえにしちゃ上出来だぜ。事を荒立てねえでこっそり目的のものを盗み出していりゃあすむ話だからな。
-そうですよねえ。話の流れからして、探しもののありかは誰にでもわかります。手下を女中に仕立てて屋敷にもぐりこませているんだから、そいつを盗み出すのは造作もねえこった。目的が金目のものじゃねえんだから、女主人にしたって、そいつを盗まれたことさえ気づかねえでしょうよ。
-そのとおりさ。第一たかが本一冊を盗もうてえのに、わざわざ大金を出して家中のものを屋敷ごとそっくり買い取ろうなんて途方もない話を持ちかける必要がねえ。あまりにも妙な話だから、女主人が怪しんでホームズ探偵に相談することになるんだ。
-しかもですよ、ボスにいいつけられた黒人ボクサーがベーカー街までやって来て、事件から手を引けとホームズを脅すなんて、いかにもおかしな話ですぜ。盗人はこっそり仕事をするのが常道、そんな目立つことをすれば足がつくに決まってますよ。
-もともと事件にならずにすむものをむりやり大事件に仕立てているから、読んでいてどうもストンと腑に落ちねえのさ。犯人は次々と自分に都合の悪いほうに事を進めているんだからな。なあ八よ、ドイルさんには悪いが、こいつは大失敗作だよ。
-でもね親分、そんなことをいったらホームズ・ファンから苦情が出やしませんかねえ(笑)。
-おいおい、いくら横槍が入っても目明しと瓦版屋は真実を曲げちゃならねえと、お奉行様もおっしゃってるじゃねえか。
……というわけで、あたしも瓦版屋のはしくれでありますから、親分の批評をそのまま掲載する次第でございます。
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