Daily Oregraph: 病は気から捕物帖 前編
本日の最高気温は17.4度。晴れ。もう少し気温が上がってもいいぞ。
小松菜と水菜がどっさり採れたのはいいけれど(試しに抜いた白カブはご愛敬)、畑にはまだまだたくさん残っているので、いったいどう始末していいやら。少しずつ時期をずらして種をまけばいいのに、とチコちゃんに叱られてしまった。
-いやあ親分、青菜をどっさり頂戴してまことにかたじけない。さて本日のテキストは『白面の兵士(The Blanched Soldier)事件』ですが、八五郎さん、予習はされましたでしょうな?
-もちろんでさあ、先生。バッチリ読んできましたとも。
-それはなにより。ではざっとあらすじをご説明してから話を進めましょう。このお話の語り手はホームズ親分ご自身というところが異色ですな。時は1903年1月、ジェームズ・M・ドッド君なる依頼者がホームズの部屋を訪れます。聞けば、ボーア戦争(1899~1902年)中の1901年に入隊して知り合った親友ゴドフリー君の消息が戦後パッタリ途絶えてしまった。ゴドフリー君が戦地で負傷したことを知っていたジェームズ君は戦友の安否を確認しようとします。そこでゴドフリー君の父君に手紙で問い合せたところ、息子は世界一周の船旅に出かけて当分戻ってこないというそっけない返事です。不審に思ったジェームズ君は徹底的に真相を突きとめようとするんですが……ここからは八五郎さんにお願いしましょう。
-承知しました。ジェームズさんはゴドフリーさんの実家に乗り込もうとして、父親は名代の癇癪持ちで息子とはそりが合わねえことを知っていたから、母親宛に手紙を出します。するとお泊めするからぜひおいでくださいという丁寧な返事が来たんです。でもね、ここがちょっと引っかかるところでさあ。
-どこが引っかかるんだい、八?
-だってそうじゃありませんか、親分。父親の手紙はぶっきらぼうで、この件にはかまってくれるなというも同然だから、家に来て欲しくねえことはいうまでもありません。しかし母親が家に泊めてくれるというからには、もちろん主人の了解を取り付けているはずですぜ。そううまく事が運ぶとは思えねえんですよ。
-なるほど、そりゃそうだな。うまい理由をこしらえて、やんわり断るのがふつうかも知れねえ。
-しかもですね、もうひとつ奇妙なところがあるんでさあ。ゴドフリー君の実家に着くと、案の定ジェームズさんと父親は言い合いになります。それはいいんだが、夕食の席で母親は息子の軍隊での様子についてあれこれと質問するんですよ。
-それのどこがおかしいんだ? 母親としてはあたりめえじゃないか。
-いえね、母親があたりまえの態度だった、というのがまさに奇妙なんです。この事件の事情がわかると、親分もきっとなるほどと納得しますよ。
-あいや親分、だんだんわかってきますから、まあ八五郎さんの話をお聞きなさい。
-さて息子は船旅に出たの一点張りでさっぱり得心のいかぬまま、ジェームズさんがあてがわれた寝室であれこれ考えていると、なんといきなり窓の外にゴドフリーさんご本人が姿を現わしたんですが、見ればその顔は真っ白。アッと驚いていると、たちまちゴドフリーさんは闇の中へ姿を消しちまったんです。急いで外へ出てその後を追いかけると、どうやらいくつかある離れの小屋のひとつに身を隠したらしいのですが、なにしろ暗いからどこかはよくわからなかった。翌朝父親を問いつめると、余計な詮索をするなとばかり、ジェームズさんは叩き出されてしまったてえわけです。
-ふうむ、息子は実は生きていたんだが、よくよくの事情があって旅に出たことにして、世間から隠していたってわけだな。
-さよう。その事情というのがわかれば、父親はともかくとして、母親が平気な顔をして息子を話題にジェームズ君のお相手したというのが不自然だと納得できましょう。ねえ親分、両親がジェームズ君を家に招き入れたという設定はドイルさんの手抜かりだと思いますよ。ちと無理がありますな。
-やっぱり先生もそうお思いになるでしょう。それからね、家を追い出されたジェームズさんが鉄道の駅長と村の宿屋の主人に確かめてみると、ゴドフリーさんは家に戻ってから間もなく世界一周の船旅に出たと証言しているんですが、これもおかしい。家族に見送られて駅から船旅に向かうのに立ち会ったんならともかく、駅長がそんな証言をできるはずはねえんですよ。駅長もグルだてえなら話は別ですが、事情からしてそれはありえねえことがやがてわかります。
-八や先生の話を聞いてると、なんだか途中でつっかえつっかえしながら流れてくる流し素麺みてえな話だなあ。
-ハハハ、拙者も決してケチをつけるつもりはないし、謎そのものはおもしろいんですがね、読んでいるとあちこち引っかかるから困るんですな。ホームズ・ファンの方々はなにも疑問を持たずにお読みになっているんでしょうかねえ。
……ええと、長くなりますから謎解きは次回ということにいたしましょう。どうしてもネタばれを避けることはできませんので、あらかじめご了解ください。
それにしても探偵小説はうかつに書けぬものです。特に短編は細かいアラが目立つからいけません。天下のコナン・ドイル先生も長屋の連中にかかっては散々でございます。
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