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May 22, 2021

Daily Oregraph: 花は散っても花見酒捕物帖

 本日の最高気温は14.8度。曇り一時雨。

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 -やあ先生、いらっしゃい。もう桜はすっかり散ってしまいましたよ。

 -うむ、これで一区切りつきましたなあ。今日は先日のお返しに、薩摩名産芋焼酎を持参しました。

 -そいつはありがたい。さあどうぞお入り下さい。前回のつづき、『サセックスの吸血鬼(The Sussex Vampire)事件』はどうでした?

 -これは前作よりずっと出来がいい。傑作とまではいえぬにしても、佳作といっていいでしょうな。

 -ええ、あたしもそう思いましたよ。「吸血鬼」というから、サルの血清の親戚かと思ったらそうじゃない(笑)。先妻の遺した少年と赤ん坊を産んだ後妻との間の暗闘というか心理戦に、息子を溺愛する亭主はまったく気づかないという、そのままではこじれる一方のむずかしい事態を、ホームズ探偵がみごとに解決したというところでしょうかね。

 -うむ、それに舞台設定もなかなかうまいですな。何世紀にも渡って新旧異なる様式で増築を重ね、全体の調和を欠いた古い屋敷という舞台は、いびつな人間関係にピッタリといえましょう。

 -崩れかけた家は床が落ち込んで曲がっていたってのは、脊椎に障碍のある少年を連想させますね。

 -この設定が意識的なものか、無意識のうちに自然と浮んだものかはわかりませんが、一応は成功していると思いますな。

 -案外批評家がほめてくれると考えたのかも知れませんよ(笑)。

 -結局は父親が鈍感だったに過ぎず、そう難事件というほどではありませんが、毒を塗ったままの矢が家の中に置かれていたという一点を除けば不自然なところはないし、ホームズの推理にも無理がなく、事件の解決もたいへん後味がいいですな。今回はガッカリせずにすみましたよ。

 -ところでその矢の毒は南米産のクラーレ(curare, 英語読みではキューラーリー)というんですが、アガサ・クリスティ女史の小説にも登場してましてね、芋焼酎とはちがって「クラーレは胃の中ではなく血流中に入れなくては効かない」てなことが書いてあります。

 -なるほど、だから赤ん坊の傷口から毒を吸い出して吸血鬼だと疑われても、後妻さんの体は無事だったわけですな。しかし薄氷堂さん、あんたも一文にもならんムダなことを知っていなさるものだ。

 -へへへ、おかげでいつまでたっても貧乏なままです。

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