Daily Oregraph: 儲け話捕物帖
本日の最高気温は16.6度。曇り。今年初めての草むしりをした。
-先生、今日は『三人のガリデブ(The Three Garridebs)事件』ですが、本題に入る前にまずこいつを……
-ははあ、電話ですな。たしか電話が登場するのはこの短編が初めてだと思います。
-この事件は1902年という設定ですが、すでに1890年代には日本でも電話は使われはじめていましたから、意外に遅い。ロンドンでもベーカー街に普及するまでには相当時間がかかったのかも知れませんね。
-うむ、あちこち電話をかけまくればすむようなことを、相変らず靴を磨り減らして調べているところを見ると、ロンドンといえども町中隅々にまでは普及していなかったのでしょうな。
-先生、これはそつなく仕上げた短編といっていいんじゃないでしょうか。
-さよう、手慣れたものですな。『赤毛連盟(The Red-Headed League)』の親戚筋に当たるストーリーだから、めったに出歩かない住人を夢みたいな儲け話で釣って外出させ、留守中に忍び込んで一仕事するつもりだなと、古くからの読者ならすぐにわかります。
-ええ、だからワトソン先生は当然そこに気がついたはずですが、「ぼくには皆目見当がつかん」てなことをいってます。まるで間抜け扱いですよ。あまりにも気の毒な書かれようじゃありませんか。
-ハハハ、たしかに損な役回りですな。ただそこまで気づいたとしても、儲け話の中身は奇想天外ですし、犯人の「一仕事」の目的がなにかはすぐにはわかりません。あんな途方もない話をよく考えつくものですよ。
-あまりにもうますぎる話だからコロリと引っかかるものだろうかという疑問もありますが、最近の還付金詐欺から考えるに、老人が簡単にだまされたとしても不自然とはいえませんね。欲というのは恐ろしいもんです。
-欲といえば、薄氷堂さん、あなた外れ富札がずいぶんたまっているじゃありませんか。
-いやどうも面目ありません。ああ、アメリカのおじさんの遺産でも転がりこんで来ませんかねえ……
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