Daily Oregraph: 最後のオーディオいじり
本日の最高気温は7.0度。曇り空で寒いから、散歩を断念。せっかくなら日の光を浴びて歩きたい。
さてこの二三日は音楽びたりである。幸い PIONEER の CDプレーヤーは順調に動作しているので、注文した品が届くまで(6月になるらしい)メカはもってくれると思う。
今朝ふと思い立ってスピーカーのサランネットを外したら、これまで聞こえなかった音がワーッといっせいに飛び出してきたのには驚いた。多少は違うだろうと思ったけれど、これほど変化するとは予想もしなかった。約20年ほどいじらなかったから、ほこりで目詰まりを起こしていたのかも知れないが、結局サランネットはスピーカー保護の役に立つ以外は無益の存在にちがいない。考えてみれば、薄靄を通して景色を眺めるようなものだからである。
あちこちにあった音の凹みが、新たに聞こえはじめた音によって埋まったらしく、明らかに全音域がなだらかになった。楽音の細部がはっきりくっきり聞こえる。音の広がりや奥行き感も向上した。スピーカーの音が確実にワンランク向上したので、買い換える気持はまったく失せてしまった。これで十分である。しかも改善にかかった費用はゼロ。
写真のとおり、お見せして自慢するようなスピーカーではない。中級ミニコンポのおまけ用スピーカーシステムだから、1本当たりたぶん1万円未満だろう。しかしこの ONKYO D-V7、それなりのアンプで鳴らしてやると俄然実力を発揮するからユニットの基本性能は高く、廉価版中の銘器(笑)といっていいのではないか。
それにしてもこの設置方法はおかしいんじゃないか、とおっしゃる方もおいでかと思う。窓枠の上の壁に直付け、しかもスピーカー間隔が狭い(約65センチ)。教科書の教えに反していることはまちがいない。
実はミニコンポを自室にセットする際場所に窮して、苦し紛れにネジ止めしたに過ぎないのだが、意外にも(いい音とまではいえないにしても)ごくまともな音が出る。壁にがっちり固定したのがよかったようだ。つまり大げさにいえば家と一体化したわけで、小柄なのにフルオーケストラの大音量にも耐える。
それまでは YAMAHA の NS-690II というそれなりに名のあるスピーカーを使っていた。こいつは使いこなしが難しく、悪戦苦闘の連続であった。壁からの距離やら床からの高さやら、あれこれ工夫しているうちに月日は過ぎ去り、やがてウーファ・エッジのウレタンがボロボロに劣化してしまったのを機に、やくざなオーディオ道楽はきっぱりやめて、茶の間から撤退して自室にミニコンポを導入したのであった。
それから幾星霜(笑)、D-V7 はそこそこ普通の音を鳴らし続けていたわけだが、新年早々かつて NS-690II と一緒に使っていた LUXMAN L-510 を引っぱり出して接続してみたら、予想外にいい音がするではないか。その後 L-510 がついに斃れて DENON PMA-1600NE を導入したら、低音は 30cm ウーファより当然劣るものの、全体としては NS-690II よりもまとまりのよい音になった……というのがこれまでのあらすじである。
さてスピーカーの高さに問題があることは認めるとして、左右の間隔はこれでまったく問題ない。ステレオ感は十分どころか、むやみに間隔をあけるよりもすぐれている。
その理屈を教えてくれたのは奇人江川三郎氏である。とにかく一風変った発想の持主で、スピーカーケーブルの材質による音の変化などは、この方が世に広めたのではないだろうか。もっともそれに便乗して馬鹿高いケーブルで商売する業者なども現われたから、功罪相半ばするところがあると思う。高価なケーブルなんぞに交換するよりも、サランネットを外したほうが効果ははるかに大きいからだ。
しかし江川さんの提唱されたスピーカー設置法は大変すぐれている。半信半疑で試してみたら、たしかにおっしゃるとおりの効果があって、目から鱗が落ちる思いをした。金が一銭もかからない方法だから、ご参考までにご紹介しておこう。
ミニコンポに鞍替えしたときにオーディオ関係の雑誌や本はほとんど捨ててしまったが、これは天下の奇書だから(笑)、大事に保存していたのである。
本書の「逆オルソン田中・江川方式のステレオ再生」という章から、説明図を引用すると、
要点としては、スピーカーの「左右間隔を取ればそれだけ音場の広さが確保できる」というのは「幼い思考法」であり、「スピーカー間隔を狭めることが問題解決の基本」だというのである。さらに「間隔を狭めて外向きにしたら音像がピシリと定位した」という。
江川氏の実験結果によれば、外向きにするとかえって定位幅が広がる(つまりステレオとして聞こえる範囲が広がる)というのだが、最初はぼくも「ほんまかいな」と疑った。スピーカーを外側に向けたら、まん中は音の空白地帯になってしまうのではないかと思ったのである。ところが、試してみると高音もちゃんと聞こえるから驚いた。以来ぼくは江川方式を採用している。
このあとさらに「左右のスピーカーの中央に仕切り板を置くとよい」てなことが書いてあるけれど、さすがに部屋の中で実行するのはむずかしいから、それは試していない。
なお写真のスピーカーは外向きになっていないじゃないかとお思いかもしれないが、場所的に無理があるので、実はL字金具で調整可能な範囲内でわずかに外向きにしている。
ほんとうにひさびさのオーディオいじり、これにておしまい。もう余命いくばくもないから、これからは音ではなく音楽をたっぷり味わうことにしたい。
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