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April 04, 2021

Daily Oregraph: ソー橋の謎捕物帖 (2)

 本日の最高気温は7.6度。雨模様だったせいもあり、肌寒い一日であった。

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 晩飯はひさびさに鯨の刺身。反捕鯨派の諸君には申し訳ないが、ぼくの好物である。ただしめったに食べない。実にうまかった。

 さて長屋では薄氷堂がなにやら一席ぶっているので、ちょっと聞いてみよう―

 本日はみなさまのご意見をうかがうつもりだったのですが、事件当夜ソー橋でなにが起こったのか、やはりミス・ダンバーの証言を聞かずに真相を推理するのはむずかしそうです。

 そこで第1部で得られた情報をここでまとめて、さまざまな可能性について考えてみましょう。ただし容疑者は第1部に登場する人物に限られるというのが前提です。

 まずはアリバイを確認しておきますと、ギブソン氏は午後8時半に食事を終えてから午後11時過ぎに事件の知らせを受けるまで「外出したという証拠はない」とホームズはいいますが、外出の証拠がないというだけでは途中のアリバイが確かだとはいえますまい。ミス・ダンバーはたぶん午後9時にはソー橋に行ったのでしょうが、その前後を含めて彼女の行動は今のところ不明です。ベイツのアリバイもまったく不明です。

 関係者のアリバイは大事ですから、クリスティ女史ならあとで突っこまれないように抜かりなく書いておくんじゃないかと思いますが、短編という制約もありますので、あまりドイルさんを責めないでおきましょう。

 次は凶器の拳銃です。ギブソン氏所有の拳銃をこっそり持ち出した可能性は、ギブソン氏本人、夫人またはベイツ、そしてミス・ダンバーのいずれにも多かれ少なかれあるでしょう。一方現場から拳銃をミス・ダンバーの衣装棚へ移すことが可能だったのは、夫人を除く3人のうちの誰かです。

 ついでに被害者が左手に握りしめていたという、ミス・ダンバーの署名入りメモについて考えてみましょう。「9時にソー橋へ行く」というだけの内容ですから、ふつう一度読んでしまえば用はありません。これ見よがしにそれを手に握っていたのはミス・ダンバーを罪に陥れるのが目的でしょうが、ホームズが指摘しているように、誰かが死体に握らせたという可能性もあります。

 ミス・ダンバーは「夫人と橋で会う約束をした」ことを認めていますが、それを額面どおりに受取ってよいものかどうか。うがった見方をすれば、このメモはもともと夫人ではなくギブソン氏にあてたものだったのかも知れません。いきさつはわかりませんが、それを夫人がたまたまみつけたか、または夫人を現場におびき寄せようとした誰かに渡された可能性もあろうかと思います。

 ここで夫人を殺害して「誰がどんな得をするか」という観点から考えてみましょう。

 嫉妬深いギブソン夫人が死亡すれば、ミス・ダンバーはギブソン氏との結婚を承知するかどうかに関わらず、自分の影響力を発揮して彼の莫大な財産を世のために活用できるという利益を得ます。しかし彼女が犯人だとすれば、そうでなくとも財産目当ての犯行を疑われるだろうに、わざわざ証拠となる拳銃を現場から自分の部屋へ持ち帰る理由がありません。もし犯人ではないのにそうしたとすれば、たとえば誰かをかばうなどの必要があって、あえて疑いを自分へ向けようとする以外には考えられません。

 ギブソン氏が下手人だとすれば、邪魔な夫人を始末することはできても、惚れたミス・ダンバーが有罪になっては元も子もありません。もし彼女の容疑が晴れれば再び求婚することはできるけれど、そうなれば今度は夫人を殺す十分な動機のある彼自身がお縄になりますから、危ない橋を渡ってホームズに調査を依頼するというのはいかにも不自然です。

 もし彼が拳銃をミス・ダンバーの衣装棚に入れたとすれば、彼女を救いたいというのは大嘘で、彼女が求婚を拒絶したために可愛さ余って憎さが百倍、実は罪に陥れようとしたのかも知れません。しかし、それならなおさらのこと、ホームズに依頼して自ら危険を招くようなことせず、だんまりを決めこむはずです。

 すると拳銃を衣装棚に入れた可能性が最も大きいのは、夫人に同情を寄せていた管理人のベイツということになります。しかしもちろん彼が夫人を殺すはずはないし、夫人が死んでもなんら経済的利益を受けないのだから、別の理由があってそうしたはずです。

 さて3人がいずれも射殺犯でないとすれば、被害者であるはずのギブソン夫人自身がこの事件の筋書きを書いたのではないかという疑い、つまりソー橋で自殺してそれを他殺にみせかけたのではないかという説が浮上します。その場合ベイツは夫人の協力者としてふるまったと考えられます。

 現場には争った形跡がなく、ごく至近距離から発射されてるということから考えれば、顔寄せ合って話している途中で犯人がいきなり拳銃を取り出して発砲したのでなければ、夫人が自ら発射した可能性はあり、死後ベイツが右手に握られた拳銃を外してミス・ダンバーの部屋に持ちこんだのでしょう。

 夫人が2人の子どもを残して自殺などするだろうか、またどのタイミングで拳銃を発射したのかという大きな疑問は残るものの、消去法だとそうなるのではないかと思います。しかし当たるも八卦当たらぬも八卦、これは大外れかも知れません。

 謎はまだ多く残っています。夫人がソー橋でミス・ダンバーと会ったとすれば、そこでなにがあったのか。ギブソン氏は屋敷を抜け出してソー橋へ行ってはいないのか。ミス・ダンバーはなぜ口をつぐんでいるのか。ベイツが拳銃をミス・ダンバーの衣装棚に入れたとすれば、彼はいつソー橋へ行って夫人の手から拳銃を外したのか、そしてそれは夫人の指示によるものなのか。橋の欄干に残った傷は夫人の頭を貫通した銃弾が当たって生じたものなのか、などなど。

 ……と、ここまで勝手なことを書きましたが、第2部を読まなければどうにも判断はつきません。ひょっとしたらとんだ大恥をかくかも知れませんが、まあ、それも一興、次回はドイルさんのお手並み拝見とまいりましょう。はたしていかが相なりますることやら?

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Comments

薄氷堂さん、こんにちは。
見事な赤みですね。尾の身ですか?
これだけの量の鯨の刺身、秋田でも滅多に見ません。
鯨の赤身を見つけたら僥倖、買うしかないですね。
馬刺しとかマガモなら、入手できるんですが。

Posted by: 只野乙山 | April 05, 2021 12:03

>只野乙山さん

 部位はわかりませんが、経験上こういう色合いの鯨肉はたいていうまいです。

 一年中いつでも入手できるかどうかは疑問ですが、スーパーではよくみかけます。そういえば、大阪にも鯨食文化がありますよね。

Posted by: 薄氷堂 | April 06, 2021 00:30

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