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April 30, 2021

Daily Oregraph: USBメモリ ファイルソート物語

 本日の最高気温は13時現在で8.9度。雨。風やや強し。

 宣言どおり昨日は畑仕事をした。まだ少し早いけれど、小松菜と水菜の種をまいた。

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 さて今日のテーマは USBメモリに保存した曲をソートした順にプレーヤーに認識させる方法について。例によってマイナーな話だが、最近は USBメモリで音楽を聴く方が増えたし、このたびプレーヤーの機種によって仕様がちがうことに気づいたので、メモを兼ねて記録しておきたい。お困りの方がおいでかもしれないからだ。

 エクスプローラーで開けば曲名がアルファベット順にそろっていても、CDプレーヤーではその順番に再生されない。ぼくの TEAC CD-H750 の取扱説明書には(今読み直してみたが)その説明がないから、最初はとまどったけれど、

 (a) フリーソフト UMSSort でメディアを指定して「まとめてソート」→「ファイルのソート」→「反映」(ソート結果を反映するの意味)を実行すれば、以後その順番で再生されることがわかり、問題は解決した。CD-H750 ではアルファベットでも日本語でもソート結果が生きるのである。

 ところが marantz CD6007 は曲者で、以上の操作ではソート結果を受けつけないのだ。それを解決するためにはフリーソフトの Mp3tag が必要である。具体的には、

 (b) Mp3tag を起動してメディアを指定し、全ファイルを反転させて「ファイル名」の欄がアルファベット順に並んでいることを確認→「ツール」→「自動ナンバリング・ウィザード」を実行する。その結果、「トラック」の項目(隠れている場合は右側へずらすと見える)にトラック番号が記録される。

 その後上記 (a) を実行する。

 これで無事ソート順(トラック番号順)に再生されるようになり、めでたしめでたしと思ったら、marantz さんは一筋縄ではいかなかった。

 ファイル名がアルファベットの場合はまったく問題ないのだが、日本語全角文字の場合は、なぜかトラック番号は無視されるのである。これには首をひねった。あれこれ考えた末に思いついた方法は次のとおり。

 (c) もとのファイル名が 「山田太郎 ○○の歌.mp3」だとすると、ローマ字の読みを頭に付けて、「Yamada Taro 山田太郎 ○○の歌.mp3」に変更するのである。ファイル数が多い場合は手間がかかるけれど仕方がない。次回からはファイルを保存する際に一手間かければいいわけだ。

 その上で (b)→(a)の手順を踏んで問題は解決した。

 整理すると、 (c)(必要な場合のみ)→(b)→(a)を実行すれば、ほとんどのメーカーの機種に対応すると思う。プレーヤーを買い換えても問題がないように、最初からこの手順をすべて実行しておいたほうがいいだろう。

 これほどの手間をかけなくても、パソコン→USB-DAC を利用すれば選曲はきわめて容易で、便利この上もない。こんなに楽をしていいのだろうかと思うほどである。

 しかし音楽を聴くのにいちいちパソコンを起動するというのもシャクにさわるから(笑)、CDプレーヤーや USBメモリ・プレーヤーには十分存在価値があると思う。CDが廃れはじめているのは確かだけれど、LPレコードプレーヤーが絶滅していないことからもわかるように、CDプレーヤーが地上から消滅することは当分ないだろう。

【付記】"&" は曲者

 USBメモリにはつらくあたる(?) CD6007 だが、上の記事を書いた後でもうひとつ注意点がみつかったので付記しておく。

 上記手順をすべて実行した結果、曲順が

Adam Smith - Good Morning 1.mp3 (トラック番号 1)
Adam Smith - Good Morning 2.mp3 (トラック番号 2)
Adam Smith & David Hume - Quiet Night.mp3 (トラック番号 3)

になったとしよう。トラック番号順だと当然 Good Morning 1 からスタートするはずだが、実際には Quiet Night が先に再生される。

 ほかにも "&" の混じったファイル名で同じ現象が起きる。どうやら & 記号を優先するらしい。結局 & → and に変更して作業をやり直せば、めでたくトラック番号順に再生されることがわかったけれど、いったいどこまで気むずかしいのだろうか。

 USBメモリ端子を利用してファームウェアを変更できるといいのだが、無理だろうなあ。リモコンで一発選曲できない点も含めて改善の必要がありますぞ、marantz さん。

 さらに引用符(')も優先されることがわかったので要注意。もちろん & にせよ引用符にせよ、再生の順番が狂わないかぎり変更または削除する必要はないので念のため。

【付記2】

 もうひとつ問題のあることがわかった。ディレクトリ(フォルダ)ごとのファイル数制限である。実は TEAC の CD-H750 にもこの制限はあったのだが、実用上さほど問題にはならなかった。しかし marantz CD6007 では1フォルダあたりの認識可能なファイル数が TEAC の半分しかないことに気づいたのである。もちろん新しいフォルダを作ればすむ話だけれど、ユーザーにとっては重要な点だと思うので、明日の記事で詳しく書くつもりだ。

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April 28, 2021

Daily Oregraph: カーメン・マクレエで音を決める

 本日の最高気温は13.0度。まずまずの天気であった。

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 6月に納品と聞いていた CDプレイヤー(Marantz CD6007)が届いたので、印象を一言。オタクな話だから適当に読み流していただければありがたい。

 高音寄りかと予想していたけれど、線は決して細くなく、低音がよく出る。音域・音場ともにやや狭いかなという印象を受けるけれど、そのかわり音がみっしりつまった感じがするところは悪くない。

 アナログ出力を使うかデジタル出力にするかで大いに迷った。CDを取っかえ引っかえして聞き比べた結果、オーケストラの全合奏のとげとげしさが明らかに少ないアナログ出力に傾いたけれど、今ひとつ判断しきれなかった。

 なにげなく USBメモリに記録していたジャズヴォーカルを聴いているうちに登場したのがカーメン・マクレエの After Glow というアルバムで、これが決定打になった。ちがいがハッキリわかったのである。

 デジタル出力(光デジタルケーブル使用)だと歌声が穴の開いた瓢箪みたいに聞こえるのである。なんのことかわかりにくいかもしれないが(笑)、つまり本来一人の人間の発する声は全音域連続してまとまっているはずなのに、途中でいくつか穴が開いた瓢箪みたいに音が漏れて、中身がつまっていないのだ。

 アナログ出力に切り替えたとたんにアッと驚いた。一個の肉体を持つ人間が発する声に聞こえたのである。そのちがい歴然たるものがあって、スカスカだったマクレエさんに肉体が戻って、声もピタリと定位した。すばらしい歌声である。これにてアナログ出力使用に決定。

 カーメン・マクレエ恐るべし(笑)。これまで彼女の大ファンというほどではなかったが、すっかり見なおした。もちろん声の録音が素直でよかったせいもあるのだろう。いじりにいじった録音がやたら多いから、音質を判断する際には要注意だと思う。

 なおこの CDプレーヤー、USBメモリが使えるのは長所だけれど、ひとつ予想外の欠点がある。TEAC のプレーヤーとは異なり、USBメモリに限ってはリモコンの数字ボタンでは任意の曲を一発選曲できないから、スキップボタンを押しまくらなくてはならないのだ(別法あるも面倒さはさほど変わりない)。音質に不満はないのだが、実に惜しいと思う。

 ……てなわけで、畑を放りっぱなしにしている。いかん、いかん、地道に働かなくては、お天道様に申し訳ない。明日こそやるぞ。

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April 25, 2021

Daily Oregraph: たぶん最後の雪

 本日の最高気温は9.8度。

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 短時間だけれど、雪がちらついたので記録しておく。

 昨年は4月下旬に野菜の種をまいたが、ちょいと早すぎた。低温だから野菜を栽培するには釧路の海岸地帯はきわめて不利である。今年は5月に入ってからまくことにする。

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April 24, 2021

Daily Oregraph: 裏庭画報 土起し

 本日の最高気温は11.7度。晴れたり曇ったり。

 畑に鍬を入れた。今年初めてミミズを見た。まだ粗い塊だらけなので、あらためてもう少し細かく砕く予定。明日は雨の予報なので明後日になりそうだ。

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 毎年のことだが、裏の通りから板塀越しにゴミを投げ捨てる不届者がいる。見つけ次第百叩きの刑に処すつもりだから覚悟するように。

 さて音楽三昧も乙なものだが、毎日ではさすがに疲れてきた。ミニコンポでは p ~ f、L-510 では pp ~ ff だったとすれば、現在は ppp ~ fff まで、つまり消え入るような弱い音から雷が落ちたような大きい音まで聞こえるので、つい聴きこんでしまう。「ながら聴き」ができないのである。

 いい機会だからマーラーの交響曲を全曲聴き直してみた。これまでほとんど無視していた大曲、第3番のおもしろさに気づいたのは収穫だったが、第8番はやはり体が受けつけなかった。曲がつまらないというのではなく、第1楽章の出だしを聴いただけで腹一杯になってしまうんだから、体力負けだろう。

 少し胃もたれがしたので、ぶぶ漬けサラサラとばかり、深夜に山田流の箏曲を聴いてみたら、当然とはいえあまりのちがいに愕然とした。どちらがいい悪いの話ではなく、これを聴いてしみじみ感心する西洋人がどれほどいるだろうかと疑問に思ったのである。異文化の理解と口でいうのは簡単だが、実際は大変むずかしいものだ。

 あまりにも活字から離れすぎたので、来週からはそろそろ平常営業に戻ろうと思う。

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April 22, 2021

Daily Oregraph: 京都通信員だより

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 河原町の某居酒屋(4月21日撮影。念のため目にはボカシをかけてある)。当社通信員にいわせれば、「皆さん粛々と呑んでました。民度の高さは折り紙付きの酒場です」だそうな。

 ひっそりと飲み食いする分には問題は少なかろうし、民度の高さ(?)はさすが京都ですなあ……といいたいところだけど、油断は禁物。当分は用心が必要だろう。

 それにしても昼間っから酒かよ。うらやましいなあ(笑)。

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April 20, 2021

Daily Oregraph: 裏庭画報 そろそろ土起し

 本日の最高気温は13.0度。晴天なれど風強し。

 ディーラーにて6ヶ月点検とタイヤおよびオイル交換。冬タイヤを仕舞いに物置へ行ったついでに裏庭を観察すると、おお、いっぺんに花が咲いているぞ。

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 フクジュソウ(左)とキバナノアマナ(右)。フクジュソウは咲くのが早いから、もう盛りを過ぎていた。

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 ウラホロイチゲ(左)とエゾエンゴサク(右)。まだ咲きはじめたばかりなので、今月末あたりからが見ごろである。

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 ギョウジャニンニク。わが家では食べない。味のクセが強すぎてぼくの好みではないせいもあるけれど、毎年花が咲くのを楽しみにしているからだ。

 花がいろいろ咲きはじめたからには、そろそろ畑の土起しをしなければならない。正直いって面倒くさいのだが、一年放っておけばたちまち根釧原野に逆戻りするので、やらざるをえない。今週末にはなんとかしなくちゃ……

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April 17, 2021

Daily Oregraph: 最後のオーディオいじり

 本日の最高気温は7.0度。曇り空で寒いから、散歩を断念。せっかくなら日の光を浴びて歩きたい。

 さてこの二三日は音楽びたりである。幸い PIONEER の CDプレーヤーは順調に動作しているので、注文した品が届くまで(6月になるらしい)メカはもってくれると思う。

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 今朝ふと思い立ってスピーカーのサランネットを外したら、これまで聞こえなかった音がワーッといっせいに飛び出してきたのには驚いた。多少は違うだろうと思ったけれど、これほど変化するとは予想もしなかった。約20年ほどいじらなかったから、ほこりで目詰まりを起こしていたのかも知れないが、結局サランネットはスピーカー保護の役に立つ以外は無益の存在にちがいない。考えてみれば、薄靄を通して景色を眺めるようなものだからである。

 あちこちにあった音の凹みが、新たに聞こえはじめた音によって埋まったらしく、明らかに全音域がなだらかになった。楽音の細部がはっきりくっきり聞こえる。音の広がりや奥行き感も向上した。スピーカーの音が確実にワンランク向上したので、買い換える気持はまったく失せてしまった。これで十分である。しかも改善にかかった費用はゼロ。

 写真のとおり、お見せして自慢するようなスピーカーではない。中級ミニコンポのおまけ用スピーカーシステムだから、1本当たりたぶん1万円未満だろう。しかしこの ONKYO D-V7、それなりのアンプで鳴らしてやると俄然実力を発揮するからユニットの基本性能は高く、廉価版中の銘器(笑)といっていいのではないか。

 それにしてもこの設置方法はおかしいんじゃないか、とおっしゃる方もおいでかと思う。窓枠の上の壁に直付け、しかもスピーカー間隔が狭い(約65センチ)。教科書の教えに反していることはまちがいない。

 実はミニコンポを自室にセットする際場所に窮して、苦し紛れにネジ止めしたに過ぎないのだが、意外にも(いい音とまではいえないにしても)ごくまともな音が出る。壁にがっちり固定したのがよかったようだ。つまり大げさにいえば家と一体化したわけで、小柄なのにフルオーケストラの大音量にも耐える。

 それまでは YAMAHA の NS-690II というそれなりに名のあるスピーカーを使っていた。こいつは使いこなしが難しく、悪戦苦闘の連続であった。壁からの距離やら床からの高さやら、あれこれ工夫しているうちに月日は過ぎ去り、やがてウーファ・エッジのウレタンがボロボロに劣化してしまったのを機に、やくざなオーディオ道楽はきっぱりやめて、茶の間から撤退して自室にミニコンポを導入したのであった。

 それから幾星霜(笑)、D-V7 はそこそこ普通の音を鳴らし続けていたわけだが、新年早々かつて NS-690II と一緒に使っていた LUXMAN L-510 を引っぱり出して接続してみたら、予想外にいい音がするではないか。その後 L-510 がついに斃れて DENON PMA-1600NE を導入したら、低音は 30cm ウーファより当然劣るものの、全体としては NS-690II よりもまとまりのよい音になった……というのがこれまでのあらすじである。

 さてスピーカーの高さに問題があることは認めるとして、左右の間隔はこれでまったく問題ない。ステレオ感は十分どころか、むやみに間隔をあけるよりもすぐれている。

 その理屈を教えてくれたのは奇人江川三郎氏である。とにかく一風変った発想の持主で、スピーカーケーブルの材質による音の変化などは、この方が世に広めたのではないだろうか。もっともそれに便乗して馬鹿高いケーブルで商売する業者なども現われたから、功罪相半ばするところがあると思う。高価なケーブルなんぞに交換するよりも、サランネットを外したほうが効果ははるかに大きいからだ。

 しかし江川さんの提唱されたスピーカー設置法は大変すぐれている。半信半疑で試してみたら、たしかにおっしゃるとおりの効果があって、目から鱗が落ちる思いをした。金が一銭もかからない方法だから、ご参考までにご紹介しておこう。

Aaccessory
 ミニコンポに鞍替えしたときにオーディオ関係の雑誌や本はほとんど捨ててしまったが、これは天下の奇書だから(笑)、大事に保存していたのである。

 本書の「逆オルソン田中・江川方式のステレオ再生」という章から、説明図を引用すると、

Speakers
 要点としては、スピーカーの「左右間隔を取ればそれだけ音場の広さが確保できる」というのは「幼い思考法」であり、「スピーカー間隔を狭めることが問題解決の基本」だというのである。さらに「間隔を狭めて外向きにしたら音像がピシリと定位した」という。

 江川氏の実験結果によれば、外向きにするとかえって定位幅が広がる(つまりステレオとして聞こえる範囲が広がる)というのだが、最初はぼくも「ほんまかいな」と疑った。スピーカーを外側に向けたら、まん中は音の空白地帯になってしまうのではないかと思ったのである。ところが、試してみると高音もちゃんと聞こえるから驚いた。以来ぼくは江川方式を採用している。

 このあとさらに「左右のスピーカーの中央に仕切り板を置くとよい」てなことが書いてあるけれど、さすがに部屋の中で実行するのはむずかしいから、それは試していない。

 なお写真のスピーカーは外向きになっていないじゃないかとお思いかもしれないが、場所的に無理があるので、実はL字金具で調整可能な範囲内でわずかに外向きにしている。

 ほんとうにひさびさのオーディオいじり、これにておしまい。もう余命いくばくもないから、これからは音ではなく音楽をたっぷり味わうことにしたい。

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April 15, 2021

Daily Oregraph: 「耳」学問

 本日の最高気温は9.4度。

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 TEAC の CDプレーヤーが復旧したのであれこれ聴きまくっていたら、またもや時々読み込み不良が起こるようになった。たぶんピップアップ部をユニット交換する必要があるらしいけれど、このクラスの製品に修理代を出そうという気にはとてもなれない。

 USBメモリ入力かアンプの USB-DAC を使えばすむ話なのだが、注文したプレーヤーが届くまで、いちいちパソコンを起動しないと CD を聴けないのはどうも面白くない。

 そこで目を付けたのが、先日来トレイが開かない PIONEER の CDプレイヤーである。どうせ捨てるつもりでいたから躊躇なくカバーを開けてみると、CD が入ったままになっていた。やはり OPEN ボタンを押してもウンともスンともいわない。

 このプレーヤーはふだんめったに使わないから、たぶん開閉装置のどこかが固着したんじゃないだろうか……この素人判断は意外にも当たっていたらしく、手であちこち動かしてから再び OPEN ボタンを押すと……開いた、開いた。マッサージで肩こりをほぐすようなものだね。

 ところが、せっかく開いたと思ったらすぐにトレイが引っこんでしまう。何度繰り返しても同じである。開閉のセンサーかスイッチが故障したのだろうか?

 どうしようか迷った挙句、トレイが一杯に開いた瞬間、手でぐいと押さえつけて閉まるのを阻止してみたら……なんと正常に動作するようになったではないか。どうせすぐダメになるだろうと思って、なんべんも試してみたが everything is all right、何事もなかったかのようにスムーズに動作する。

 さっそく RCAケーブルでアンプに接続し、音を出してみた。聴いたとたんに、「こりゃあかん」と思った。ひどい音なのである。泥団子のような音、とでも形容すればいいのだろうか、まるで音楽になっていない。やはり四半世紀前の廉価版 CDプレーヤーを最新アンプに接続するとボロが出るようである。ダメだ、こりゃ。

 さてここで何気なく PIONEER の取扱説明書をめくってみると、驚いたことに、この古いプレーヤーには「光デジタル出力端子」があったのだ。へえ、知らなかった。

 なにしろ数十年オーディオの世界から遠ざかって、ミニコンポのお世話になっていたから、ここでお勉強。林正儀さんの「オーディオ講座」というサイトの記事を読んで、なるほどと納得した。

 つまりCDプレーヤーは「CDから拾ったデジタル信号→DAC(デジタル→アナログ・コンバータ)→アナログ信号をアンプへ」という仕組みになっている。だから音質は主に DAC の性能に依存するらしい。

 アナログ・アンプとちがってデジタル機器は日進月歩だから、CDのデジタル信号をプレーヤー内の DAC ではなく、光ケーブルで最新の DAC に直結してやれば、音質を大いに改善できる可能性がある。

 PMA-1600NE には DAC が内蔵されているので、さっそく光ケーブルで接続してみると、予想どおり音質は劇的に向上した。まるで別物だからびっくり仰天である。これなら新品が届くまでメカがもってくれれば、十分代用になるだろう。

 TEAC のプレイヤーは2013年製だけあって、RCAケーブル接続でもまともな音が出るけれど、やはり光ケーブル接続して条件をそろえ、PIONEER と聞き比べをしてみた。

 いわゆるハイファイの観点からは TEAC の圧勝。全体によりフラットですっきりさわやか、高音も繊細だし、異なる楽器の音もちゃんと分離して聞こえる。ただしややふくよかさに欠けるように思う。PIONEER のほうはどの音も丸くなって楽器の分離も今ひとつ、全体に音域が狭いうえにバランスが低音寄りで、うっすら春霞がかかったような印象を受ける。

 では古い PIONEER の音はまったくダメかというと、決してそうではないから面白い。昭和世代にとってはなじみのある、なつかしい音といえばいいだろうか、あまり聴きづかれしないので、ゆったりした気分で聴くにはなかなかよろしい。曲によってはこちらを好む人もいると思う。今マーラーの1番をかけているのだが、これはこれで悪くないなあ。

 そういえば、昔々曲によってレコードプレイヤーのカートリッジを取り替えて聴いていたことを思い出した。ガラリと音が変化するのである。金と場所に困らなければ(笑)、まるで性格のちがう CD プレーヤーを3台くらい用意するのも悪くないが、下級国民にはむずかしいよなあ。

 今回の経験から考えるに、古い光デジタル出力端子付き CDプレーヤーをお持ちの方は、RCAケーブルを外して、光ケーブルでアンプに接続してごらんになってはいかがだろうか。最近はミニコンポにもたいてい光デジタル入力端子が付いているので、試してみる価値は十分あると思う。投資は光ケーブル1本のみだから、わずか千円程度である。

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April 14, 2021

Daily Oregraph: レンズを拭く話

 本日は曇りのち一時雨、最高気温は8.9度。朝のうちは晴れていたので、昼前に散歩に出ようとしたところへ雨が降り出した。残念。

 さて本日は故障中の TEAC製 CDプレーヤーのカバーを開け、ダメ元でレンズのクリーニングを試してみた。トレーはスムーズに開閉するので、読み取り不良の原因はレンズの汚れかピックアップ部そのものの故障にちがいない。後者ならお手上げである。

 もちろんレンズの汚れは真っ先に疑ったから、湿式クリーニング・ディスクで何度か清掃したのだが、ウンともスンともいわない。となればピックアップ部が怪しいけれど、ぼくは以前からクリーニング・ディスクの効果には疑いを抱いていた。頑固な汚れは取れないんじゃないかと思うのである。ダイレクト清掃を試してみる価値はあるだろう。

 お断りするまでもなく、ダイレクト清掃はそれこそ自己責任なので、決してお勧めはできない。ぼくの場合、保証期間がとっくに切れているので、気楽に試すことができたのである。

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 まずは上部カバーを外すのだが、TEAC さんはプラスネジではなく六角レンチ用ネジを使っている。ぼくはたまたま持っていたからいいけれど、六角レンチ・セットなんてお持ちでない方のほうが多いと思う。

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 これが内部。レンズのありかはわかるが、この状態ではうまく清掃できないから、電源を入れてトレイをオープンすると、

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レンズが見える。これは清掃後に撮ったものだが、もともと目に見えるほど汚れていたわけではない。たぶんちょっと曇っていた程度だろうと思う。

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 レンズを傷つけるから綿棒にクリーニング液を付けてゴシゴシこすっては相ならんという。そこでデジタル一眼レフ撮像素子の清掃用であるニコン純正(笑)シルボン紙を麺棒の軸に巻きつけ、無水エタノール(純度100%)をちょいと付けて、丁寧にレンズを拭き取ってみた。清掃後少し時間を置いて CD をセットし、ディスクをスタートすると読み取りに成功したので、カバーを閉じる。

 アンプに接続して CD を10枚ほど試してみた。10枚のうち8枚はまったく問題なし。残りの2枚のうち1枚はまったく読み込まなかったので盤面をチェックすると、なぜか大きく深い傷がついていたから、プレーヤーのせいではないようだ。もう1枚は最初はダメだったが、CDの盤面をメガネ拭きでサッと拭き取ってから入れ直すと無事読み込んだ。これは CD の盤面汚れのせいか(これはたまにある)、レンズの清掃が不完全だったせいか、なんともいえない。

 まあ、これで一応は復活したので、注文した品が届いたら、こちらは別室用として当分は使えそうだ。それにしても、レンズの汚れは CDプレーヤー最大の泣きどころだと思う。テープデッキの磁気ヘッドはユーザーが自分で簡単に清掃できたし、メーカーでもそれを奨励していた。それを思えば、せめてレンズを清掃しやすい構造にするか、それが勧められないというなら、製造者としてなんらかの手を打つべきではないか。

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April 12, 2021

Daily Oregraph: 十勝港の春

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 本日の生存証明写真はひさびさの十勝港(広尾町)。遠くの山々にはまだ雪がうっすら残っていた。

 今日の最高気温は広尾町19.2度に対して釧路は9.1度だから、なんと10度以上の差である。ポカポカして気持がよかったので、港内をブラブラ散歩。岸壁のあちこちに釣人がいて、コロナとは無縁の呑気さである。

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 見覚えのあるキタキツネ。栄養失調で毛がごっそり抜けているのは気の毒だが、無事冬を越して春を迎えたのはなによりである。船の近くでしばらく粘っていたけれど、だれも餌をくれないので、いつの間にか姿を消していた。生きるのは大変なことだよなあ、お互い。

 仕事を終えて、午後帰釧。今月は音楽月間と決めた。人間楽な方に流れるものだ。捕物帖はしばらくお休みである。

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April 10, 2021

Daily Oregraph: 壊れゆくもの

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 本日の最高気温は7.0度。さほど高くはなかったけれど、風が弱く快適であった。春採湖畔では散歩する人の姿を多く見かけた。

 さてここ数日は、網戸の張り替えをしたり(笑)、なにかと落ち着かなかった。まずプリメインアンプ L-510 がついに故障した。先月の半ばあたりから右チャンネルが不調だと思っていたら、だんだん音が途切れたり歪んだりするようになった。気に入っていたのだが、なにぶん36年以上経過した品だし、経年劣化だろうから仕方がない。

 そこでいろいろ調べて見た上で、最近のラックスの製品は高価で手が出ないから、評判のいい DENON PMA-1600NE というアンプを購入した。L-510 と大体同クラスの製品だと思う。重量は17.6 kgだから、L-510+0.6 kg と結構重い。実はもう少し奮発して PMA-2500NE にしようかと考えたのだが、重量 25 kg(!)と知って断念。ジジイにはそんな重いものを持ち運ぶ元気はありませぬ。

 このアンプ、いわゆるネットワーク機能はないけれど、パソコンと USB接続できる(別売りの USB A-B ケーブルを使用)。どんなものかとんと見当がつかなかったけれど、パソコンにアンプ内蔵スピーカーを接続するのと基本的には同じ要領だから、実際はごく簡単だった。

 専用のドライバーをインストールして、アンプ側のポジションを USB-DAC にセットすれば、CD だろうが YouTube だろうが、パソコン側で再生する音はすべてアンプを通してスピーカーシステムから鳴るという仕掛けである。当然たいへん高音質だし、使い勝手もすぐれている。

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 この写真のように、パソコンのオーディオ再生ソフトを使用しているとき(上)には、アンプ側に「USB: PCM」と表示される。

 パソコンの CD ドライブで音楽CDを再生できるから、しめしめ 故障中のCDプレイヤー(USBメモリのみ使用可能)を買い換える必要はないと喜んでいたら、そうは問屋が卸さなかった。

 別室でミニコンポに接続して使用中のパイオニア製 CDプレイヤーが L-510 と気をそろえて故障してしまったのである。これは大変丈夫なメカニズムで、24年間も故障知らずで使用したけれど、とうとうトレイが開かなくなってしまった。結局 CDプレイヤーまで注文する羽目になったが、ただいまコロナ禍のせいで人気機種は品薄らしく、品物がいつ届くかはまだわからない。

 安心していい音が聞けるのはうれしいけれど、こうなるとスピーカーも交換したくなる。若い頃なら後先考えず、なけなしの金を注ぎこんでスピーカーも一緒に注文したところだが、年を取ると人間少しは冷静になるものらしい。設置できる場所が限られており、セッティングが面倒くさいから、このたびは見送った。アンプも故障し CDプレーヤーも壊れ、この分だとスピーカーを交換する前にこっちがお陀仏になるかも知れない。

 なおついでに納戸を整理したら、こんな恐ろしいものが出てきた(笑)。

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 みっともないものをお見せして申し訳ないが、昔々作った真空管小パワーアンプの残骸である。フォノ・イコライザアンプをバラしてむりやりシャーシを使い回したから、ボコボコになっている。捨てる前に記念撮影した次第、ああ。

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April 05, 2021

Daily Oregraph: ソー橋の謎捕物帖 (3) 解決編

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 本日の最高気温は8.2度。昨日より気温は高く、晴天だったけれど、風が冷たかった。

 さて薄氷堂の隙間だらけの部屋には、今日もおなじみの面々が集まっております。まず八五郎がニヤニヤ笑いながら、

 -薄氷堂さん、あなたの八卦、当たりましたかい?

 -ハハハ、まあ半分当たりというところでしょうか。

 -はてな、半分といいますと?

 -はい、ギブソン夫人自殺説は大当たりです。しかしベイツが協力者だと考えたのは大外れでしたよ。

 すると親分が首をかしげて、

 -するてえと、夫人は自殺に使った拳銃をどうやってミス・ダンバーの衣装棚に持ちこんだんですかね?

 -さあそこですよ、親分。実はね、あたしは前回はしょっていたが、問題の拳銃は2丁揃いのうちの1丁、つまり同じ型の拳銃がもうひとつあったんです。担当の巡査の話ですと、「事件に使われたのは同じ箱に入った2丁揃いのうちの1丁で、もう一つのほうは見あたらなかったが、探せばみつかるだろう」というんだから箱は空、結局夫人は無断で2丁とも持ち出したことになりますね。

 -ということは、自殺に使った拳銃と衣装棚に入れた拳銃は同じ型の別物というトリックですかい? こめかみに当てて発射した銃かどうかは、痕跡を見ればすぐにわかりそうなものだが…… それに現場で使ったほうの銃をどう始末したかが問題ですね。

 -さすがは親分、その始末の方法についてはちと疑問があって、あとでご説明いたしましょう。その前に別の問題があって、ドイルさんはまたミスをやらかしているんですよ。

 -といいますと?

 -あとの方で、ホームズは巡査の話と矛盾したことをいっているんです。つまり「夫人は夫の拳銃のうち1丁を持ち出して保管し、森の中であらかじめ1発だけ発射しておいた同型の別の銃を、当日の午前中にミス・ダンバーの衣装棚に隠しておいた」というのです。

 -なるほど、1丁だけ持ち出したんなら、2丁入りの箱には対になる1丁が残っていなくちゃならねえ。夫人はそれとは別の拳銃をもう1丁どこかで手に入れたことになるから、ドイルさんの凡ミスだね。おっと、待てよ、衣装棚に拳銃を隠したのが「当日の午前中」ってのはおかしくはねえですか。

 -そうなんですよ。ミス・ダンバーがその日の朝衣装棚を開けて整理したときには確かに拳銃はなかったから、その後午前中の授業のため彼女が不在中に、夫人が部屋に忍び込んで隠したんだろう、というんですが、ちょいとおかしくはありませんか?

 すると手習いのお師匠さん、鼻毛を抜きながら、

 -拙者もそれはおかしいと思いますな。念のため、整理棚の拳銃はいつ見つかったのですかな、薄氷堂さん。

 -事件の翌朝警察が捜索してみつけたんです。しかしご婦人が翌朝まで一度も衣装棚を開けないということはめったにないんじゃないでしょうか。もちろん開けたからといって床に置かれた拳銃に気づくとは限りませんが、見つける可能性はおおいにありますよ。

 -うむ。拙者だったら、そんな危ない真似はしないでしょうな。

 -だから事件後のどさくさに紛れて、自殺に使った拳銃をこっそり衣装棚に入れたんだろうと、あたしは考えたんです。夫人が死んでいる以上協力者がいるはずだし、そいつはベイツだろうと考えたわけです。ただベイツが協力したとすれば夫人が自殺することを知っていたはずだから、それも奇妙な話だと首をひねっていたんですよ。

 すると親分もうなずいて、

 -実はあっしも同じことを考えていましたよ。しかしこれじゃ話が先に進まねえから、そろそろ自殺に使った銃の始末についてうかがいましょうか。死んだ人間に始末ができるものかどうかだね。

 -それでは、ひどくまずい絵ですが、これをごらんいただきましょう。

 そういって薄氷堂が一同に見せたのは、

Thor_bridge

 -あたしには力学はまるでわかりませんが、ホームズは現場でワトソン先生携帯の拳銃を使って実験し、この仕掛けがうまく働くことを確認しています。親分はこれを見てどうお思いになりますかな。

 -う~む、この仕掛けが働くとしたら相当重さのある石が必要だろうし、女が一人でこしらえるのはむずかしかろうと思うんだがねえ。まあ、かりにこしらえたとしてもですよ、石を吊り下げた瞬間から紐がピンと張って、拳銃を自由に動かすのはむずかしくなる。女の細腕じゃ銃を支えるだけでも大変なのに、片手でこめかみにピタリと狙いを定めるなんて芸当ができるとはとても思えねえ。先生、こいつはとても無理じゃありませんかね。

 -さよう、狙いを定めるどころじゃありますまいな。それにですな、自殺した夫人の精神状態を想像するに、そもそもこんな凝った仕掛けを考えつく余裕がありましょうかな? 薄氷堂さん、まだお聞きしていなかったが、ミス・ダンバーは確かにソー橋で夫人に会ったのですな?

 -ええ、説明が足りませんでしたね。まず当日ミス・ダンバーを呼び出したのはギブソン夫人のほうだったんです。夫人は返事をメモに書いて指定場所に置くように指示し、そいつをミス・ダンバーに不利な証拠として現場で握りしめていたというわけです。約束の9時にソー橋で会ってみると、夫人は半狂乱の状態で悪罵を浴びせつづけます。ミス・ダンバーがいたたまれなくなって屋敷へ逃げ帰ったあと、夫人は例の仕掛けを使って自殺し、拳銃を水中に沈めたというわけです。

 -なるほど。嫉妬に狂ってカッとなった女がこれほど緻密な計画を練るとは、拙者にはとても考えられませんな。自殺するとしても、橋の上でミス・ダンバーを射殺して道連れにするほうが自然だと思いますぞ。

 するとそれまで諸先輩の話をじっと聞いていた八公が、

 -こないだ薄氷堂さんもいってたように、あっしは夫人を自殺に追い込んだミス・ダンバーが一番罪深いんじゃねえか思うんですよ。

 -ええ、あたしも八五郎さんに同感ですな。本人もすぐに屋敷を去らなかったことをあとで反省してるようなんですが、やはりミス・ダンバーという人物の性格や行動は不可解で、この事件の真犯人は彼女だといっていいかも知れませんね。

 親分が苦笑いして、

 -薄氷堂さん、あんた、最初これはひさびさの本格探偵小説だってほめていなさったね。

 -う~む、期待していたんですけどねえ。いつもほめようと思って読みはじめるんですが、途中で無理なところがみつかるから残念なんですよ。先生はどうお思いで?

 -そうですなあ、このシリーズを推理小説としてマジメに読むから失望するわけで、やはりホームズ手柄話として気楽に読み流すのが無難かと拙者は思いますぞ。

 -そうかも知れませんねえ。でもね、まだ10編も残ってるんですよ。どうしましょうかねえ。

 -乗りかかった船だよ、薄氷堂さん。八の勉強にもなるしね、最後までおやんなさい。全部片づいたら、あっしがお祝いに宴会を開いてあげますよ。

 -おお、そいつはありがたい。親分、ぜひお願いいたします。

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April 04, 2021

Daily Oregraph: ソー橋の謎捕物帖 (2)

 本日の最高気温は7.6度。雨模様だったせいもあり、肌寒い一日であった。

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 晩飯はひさびさに鯨の刺身。反捕鯨派の諸君には申し訳ないが、ぼくの好物である。ただしめったに食べない。実にうまかった。

 さて長屋では薄氷堂がなにやら一席ぶっているので、ちょっと聞いてみよう―

 本日はみなさまのご意見をうかがうつもりだったのですが、事件当夜ソー橋でなにが起こったのか、やはりミス・ダンバーの証言を聞かずに真相を推理するのはむずかしそうです。

 そこで第1部で得られた情報をここでまとめて、さまざまな可能性について考えてみましょう。ただし容疑者は第1部に登場する人物に限られるというのが前提です。

 まずはアリバイを確認しておきますと、ギブソン氏は午後8時半に食事を終えてから午後11時過ぎに事件の知らせを受けるまで「外出したという証拠はない」とホームズはいいますが、外出の証拠がないというだけでは途中のアリバイが確かだとはいえますまい。ミス・ダンバーはたぶん午後9時にはソー橋に行ったのでしょうが、その前後を含めて彼女の行動は今のところ不明です。ベイツのアリバイもまったく不明です。

 関係者のアリバイは大事ですから、クリスティ女史ならあとで突っこまれないように抜かりなく書いておくんじゃないかと思いますが、短編という制約もありますので、あまりドイルさんを責めないでおきましょう。

 次は凶器の拳銃です。ギブソン氏所有の拳銃をこっそり持ち出した可能性は、ギブソン氏本人、夫人またはベイツ、そしてミス・ダンバーのいずれにも多かれ少なかれあるでしょう。一方現場から拳銃をミス・ダンバーの衣装棚へ移すことが可能だったのは、夫人を除く3人のうちの誰かです。

 ついでに被害者が左手に握りしめていたという、ミス・ダンバーの署名入りメモについて考えてみましょう。「9時にソー橋へ行く」というだけの内容ですから、ふつう一度読んでしまえば用はありません。これ見よがしにそれを手に握っていたのはミス・ダンバーを罪に陥れるのが目的でしょうが、ホームズが指摘しているように、誰かが死体に握らせたという可能性もあります。

 ミス・ダンバーは「夫人と橋で会う約束をした」ことを認めていますが、それを額面どおりに受取ってよいものかどうか。うがった見方をすれば、このメモはもともと夫人ではなくギブソン氏にあてたものだったのかも知れません。いきさつはわかりませんが、それを夫人がたまたまみつけたか、または夫人を現場におびき寄せようとした誰かに渡された可能性もあろうかと思います。

 ここで夫人を殺害して「誰がどんな得をするか」という観点から考えてみましょう。

 嫉妬深いギブソン夫人が死亡すれば、ミス・ダンバーはギブソン氏との結婚を承知するかどうかに関わらず、自分の影響力を発揮して彼の莫大な財産を世のために活用できるという利益を得ます。しかし彼女が犯人だとすれば、そうでなくとも財産目当ての犯行を疑われるだろうに、わざわざ証拠となる拳銃を現場から自分の部屋へ持ち帰る理由がありません。もし犯人ではないのにそうしたとすれば、たとえば誰かをかばうなどの必要があって、あえて疑いを自分へ向けようとする以外には考えられません。

 ギブソン氏が下手人だとすれば、邪魔な夫人を始末することはできても、惚れたミス・ダンバーが有罪になっては元も子もありません。もし彼女の容疑が晴れれば再び求婚することはできるけれど、そうなれば今度は夫人を殺す十分な動機のある彼自身がお縄になりますから、危ない橋を渡ってホームズに調査を依頼するというのはいかにも不自然です。

 もし彼が拳銃をミス・ダンバーの衣装棚に入れたとすれば、彼女を救いたいというのは大嘘で、彼女が求婚を拒絶したために可愛さ余って憎さが百倍、実は罪に陥れようとしたのかも知れません。しかし、それならなおさらのこと、ホームズに依頼して自ら危険を招くようなことせず、だんまりを決めこむはずです。

 すると拳銃を衣装棚に入れた可能性が最も大きいのは、夫人に同情を寄せていた管理人のベイツということになります。しかしもちろん彼が夫人を殺すはずはないし、夫人が死んでもなんら経済的利益を受けないのだから、別の理由があってそうしたはずです。

 さて3人がいずれも射殺犯でないとすれば、被害者であるはずのギブソン夫人自身がこの事件の筋書きを書いたのではないかという疑い、つまりソー橋で自殺してそれを他殺にみせかけたのではないかという説が浮上します。その場合ベイツは夫人の協力者としてふるまったと考えられます。

 現場には争った形跡がなく、ごく至近距離から発射されてるということから考えれば、顔寄せ合って話している途中で犯人がいきなり拳銃を取り出して発砲したのでなければ、夫人が自ら発射した可能性はあり、死後ベイツが右手に握られた拳銃を外してミス・ダンバーの部屋に持ちこんだのでしょう。

 夫人が2人の子どもを残して自殺などするだろうか、またどのタイミングで拳銃を発射したのかという大きな疑問は残るものの、消去法だとそうなるのではないかと思います。しかし当たるも八卦当たらぬも八卦、これは大外れかも知れません。

 謎はまだ多く残っています。夫人がソー橋でミス・ダンバーと会ったとすれば、そこでなにがあったのか。ギブソン氏は屋敷を抜け出してソー橋へ行ってはいないのか。ミス・ダンバーはなぜ口をつぐんでいるのか。ベイツが拳銃をミス・ダンバーの衣装棚に入れたとすれば、彼はいつソー橋へ行って夫人の手から拳銃を外したのか、そしてそれは夫人の指示によるものなのか。橋の欄干に残った傷は夫人の頭を貫通した銃弾が当たって生じたものなのか、などなど。

 ……と、ここまで勝手なことを書きましたが、第2部を読まなければどうにも判断はつきません。ひょっとしたらとんだ大恥をかくかも知れませんが、まあ、それも一興、次回はドイルさんのお手並み拝見とまいりましょう。はたしていかが相なりますることやら?

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