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March 20, 2021

Daily Oregraph: スパイ退治捕物帖

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 上の写真は昨日紫雲台墓地から米町・知人(しりと)方面を撮ったもの。米町踏切跡から知人までの海岸沿いの道は、ぼくの主な散歩コースだったけれど、残念ながら現在は通行禁止になっている。だれにいえばいいのか知らないが(笑)、早くなんとかしてほしいものだ。

 さて短編集『ホームズ最後の挨拶(His Last Bow)』の最後を飾る作品は『ホームズ最後の挨拶-シャーロックホームズの戦功(His Last Bow: The War Service of Sherlock Holmes)』で、第一次大戦中の1917年9月に発表されたものである。

 世界史年表によれば、第一次大戦はオーストリアがセルビアに宣戦布告した1914年7月28日に勃発し、ドイツが休戦協定に調印した1918年11月11日に終結している。連合国側が本格的な攻勢に転じたのは1918年だから、この短編が書かれた頃、愛国者をもって任ずるドイルさんは毎日落ち着かずジリジリとしていたにちがいない。

 イギリスがドイツに宣戦布告したのは1914年8月4日で、この物語の舞台設定は8月2日午後9時だから、まさに英独開戦前夜である。ストーリーはほとんど探偵小説的要素の見られないごく単純なもので、ホームズ探偵がお国のために大活躍し、ドイツのスパイの親玉をとっちめるというものだから、内容は推して知るべしである。

 だからとても傑作と呼べる作品ではないけれど、ドイルさんの愛国心の発露にケチをつけるのはヤボというものだろう。ドイルさんはもともと筋金入りの(なつかしい言葉を使えば)保守反動派らしく、ずいぶん国威発揚には熱心だったそうである。しかしぼくの見るところでは、幸いなことにフェアプレイの精神とバランス感覚を持ち合せた人だから、危うく単なるトンデモ小説に終りそうなところをギリギリ踏みとどまっている点は認めていいと思う。

 この作品ではワトソン先生は語り手ではなく、なんとホームズ探偵の運転手を勤めている。いつの間にか馬車から自動車の時代へと移り変わっていたわけだ。この頃ホームズはすでに引退して田舎に引っこみ、養蜂と読書に専念していたのだが、首相じきじきの要請に応じてドイツ・スパイ組織の捜査に乗り出したということになっている。

 「最後の挨拶」というくらいだから、ホームズは本作品をもって完全に引退したわけだが、このあと『シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)』(1921年10月~1927年4月発表)という、引退前の12の事件を扱った最後の短編集がつづく。

 正直いって少々疲れてきたけれど、せっかくだから残り12作も読むことにしよう。どうか今しばらくおつきあいいただきたいと思う。

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Comments

>幸いなことにフェアプレイの精神とバランス感覚を・・・

根っこの所のものの考え方は別にして、この「フェアプレイの精神とバランス感覚」というものが、なにやら近年の我が国のリーダーたちにはかけているように思えてならないのですが・・・「道徳」という科目を教科として学校で取り扱うようにとの方向性を、その「フェアプレイの精神とバランス感覚」をお持ち合わせにならない方々が推進なさったというのはひょっとして・・・せめて後に続く人々には、自分たちが持ち合わせていないこの崇高なる精神を高めていってほしいとのかの方々の願い・・・な訳はないか・・・

ともあれ、あと12作ですか・・・すごいなあ・・・

Posted by: 三友亭主人 | March 22, 2021 09:28

>三友亭さん

 まあ、この手の小説はたいていは底の浅いものになりがちで、本作品もその例外ではありませんが、なんとか抑制は効いているという印象を受けました。

 「道徳」については、黒い人々が白いことを押しつけようとしたってダメですよ。自分たちがまったく守るつもりもないことを、支配の道具として下級国民には守らせようという魂胆が透けて見えます。

 だから学校の科目にするのは反対です。「頭」と「要領」のいい生徒が高得点を取るに決まっています。子どもの世界にまで偽善がはびこるようでは、社会へもたらす害毒は大きいと思います。

Posted by: 薄氷堂 | March 23, 2021 08:45

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