Daily Oregraph: 4分の3捕物帖
本日の最高気温はプラス1.7度。街を歩いても寒さをまったく感じませんでした。
さて例によって裏長屋の二人は無駄話に花を咲かせている……といいたいが、二人とも腕組みして首をひねっております。畳の上に置かれているのは『スリークオーター失踪(The Missing Three-Quarter)事件』。
-先生は剣術の心得がおありでしょうけど、私は運動のほうはさっぱりいけない。スリークオーターってのはなんです? 「4分の3(three quarters)」じゃないことはわかるんですがね。
-そういわれましてもな、拙者も鞠を扱う遊びはまるでわからんのです。字引を引くと「フォワードラインの後方、ハーフバックとフルバックとの間に位置する2~4人の選手の一人」てなことを書いてありますが、どれもチンプンカンプンでしてな。たぶんいくさの陣形に関係するのでしょう。
-ハハハ、ホームズ親分のセリフじゃないが、アマチュア・スポーツマンとは「住んでいる世界がちがう」というやつですね。
-さよう。とにかくケンブリッジ大学ラグビーチームの主力選手であるスリークオーターが、オクスフォード大学との大事な試合の直前に忽然と姿を消してしまったというのが、今回の事件ですな。
-要するに大学対抗試合の勝敗に関わる行方不明の選手捜しにホームズ親分が乗り出したというわけで。
-これが意外にも難事件で、親分は靴を磨り減らして歩き回り、大いに苦労するわけですが、全体に捕物話というより人情話風であるところがおもしろい。
-さすがのホームズ親分も、苦労の末居所は突きとめたものの、失踪の原因は最後までつかめませんでしたね。しかしそいつはしかたがないと納得できます。
-だからホームズ手柄話とはいいにくいのですが、登場人物にはなかなか味があります。「頭よりも筋肉のほうを使い慣れた」依頼主のチーム監督、大金持の貴族のくせに甥である選手の捜索にはびた一文金を出さんというケチな叔父さん、尊大に構えて捜査にはてんで協力してくれない大学のえらい先生。
-そういえば、ホームズ親分とワトソン先生ですが、めずらしく親分みずから「ロンドンの中年紳士二人(a couple of middle-aged London gentlemen)」といってますね。しかし何歳くらいなのかははっきりしません。
-さあて、字引を引いても「若くもなく年寄りでもない」としか書いていない。だが『4人のしるし(The Sign of [the] Four)』事件当時、ワトソン先生は30代後半だったと思われますから、この事件の頃は40代にちがいないでしょうな。
-結局選手の居所がわかったときには試合は終っていたわけですが、新聞記事には主力選手が欠けた「the Light Blues の敗北」と書かれています。このブログの読者なら、辞書を引かなくてもその意味はわかりますね。
-さよう濃い青がオクスフォードで、淡い青はケンブリッジというのは『三人の学生事件』に出ております。だから薄氷堂さんの屁のようなブログでも、まったく役に立たんというわけではありませんな。
-ハッハッハ、「屁のような」はどうも恐れ入りますが、返す言葉もありません。
Comments