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January 04, 2021

Daily Oregraph: 正義の犯罪捕物帖

210104_01
 本日の最高気温は-1.2度。西風が冷たい。釧路川には氷が浮んでいた。

 今回の作品は『チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)』事件である。昔ぼくが読んだ翻訳は『恐喝王ミルヴァートン』と題し、これはまず妥当なところだと思う。『犯人は二人』とする邦訳もあるらしいが、こちらはまずい。内容から見て誤りとはいえないけれど、探偵小説の邦題としては不適切だろう。

 ミルヴァートンは、巧妙に法の網を逃れつつ、恐喝で巨万の富を築いた男である。いつも薄笑いを浮かべて紳士面をしてはいるが、きわめて冷酷非情、他人の不幸を飯の種にして肥え太っている卑劣漢ゆえ、日頃冷静沈着なホームズが「ロンドン一の悪党(the worst man in London)」だとして、口をきわめてののしっている。

 この小説を読んだ八公が「ふ~ん、大勢の人を不幸に陥れた江戸一の悪党、口入屋の平蔵みてえなやつだね」と感想を述べていることからも、どんな男か想像がつくと思う(どの平蔵かは、もうお察しであろう(笑))。

 さてその悪党をこらしめて哀れな依頼者を救うために、なんとホームズとワトソン先生は家宅侵入、窃盗という罪を犯すことになる。正義のための犯罪は正当化されるか、という興味深い問題を提起しているともいえよう。

 あらゆる犯罪の手口を熟知している探偵ホームズは、みごとな泥棒の手腕を発揮するのだが、動機が動機だから、たいていの読者は苦笑しながらも彼の行為を大目に見るだろうと思う。ただしどうしても見逃せない問題がひとつある。再びわれらが八五郎さんのご意見をうかがってみよう。

 -う~ん、あっしが納得できねえのは、邸内の様子を探るためにホームズの親分がミルヴァートンの女中さんに言い寄って婚約までしたことなんです。結局は女をポイと捨てちまうんだから、罪が深いですぜ。

 ぼくも同感である。この一事なかりせば春の心はのどけからまし、この短編の後味はずっといいものになったにちがいない。しかし人によってはまた違った感想もあるもので、手習いのお師匠さん、溜息をつきながら、

 -女嫌いを売り物にしているホームズの親分に、女をくどく才能があろうとは、まことに意外でござった。

と、うらやましそうな顔を見せるところから察するに、お師匠さんもまだまだ学問が足りないようで……

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