Daily Oregraph: お神酒捕物帖
本日の最高気温は+2.0度。朝から日射しがありましたので、裏長屋の寒さも一休みというところでございます。
-薄氷堂さん、ご在宅かな。
-おや、先生、どうぞお上がりください。今日は丁度オツなものがありましてね。
-へえ、これはまた……
-へへへ、売れ残りのお神酒、角の酒屋で投げ売りしてたのを、小生が救ってやったわけでして。
-なるほど。こう景気が悪くては、なかなか正札でものは買えない。拙者もお上が給付金を一両くださるのをあてにしておったが、勘定奉行があの愚物では話にならん。ろくに学問もないくせに平生からいばり散らし、実にけしからん男ではありませんか。
-まあまあ、お神酒でもいただいて気分を直すとしましょう。ところで例のナポレオン胸像事件はお読みになりましたかな?
-うむ、あれはホームズ親分にしては才気に走らず、コツコツと地道な捜査をしたところが値打ちですな。
-ロンドンのあちこちを歩き回って丹念に調べるところはちょいと地味なようだが、事件そのものの着想はおもしろいし、よくできた話だと思いますよ。
-しかしレストレイド警部が相変らず間抜けなのは気になりますな。連続して同じかたちの胸像が壊されるからには、きっとなにかわけがあるにちがいない。当然奉行所としては小売り、問屋、製造元の筋を探るはずだし、またそうしなくては手落ちになります。
-ハハハ、でも私立探偵が利口な分だけ警察が間抜けなのは探偵小説の常道ですからね。えらそうなお上に不満を抱いている者にとってはそのほうが愉快でもありますから、本の売行きにも関係するのでしょう。
-そうかも知れませんな。ところで薄氷堂さんが犯人だとして、とっさに半乾きの石膏像の中になにかを隠すとしましょう。あとあとのためにどうしますかな?
-仮定の質問にはお答えできない、てなことを私は申しませんよ(笑)。そうですね、一々割らんでもいいように、底になにか目印をつけておくでしょうね。底なら多少傷がついていたって売り物にはなります。
-さよう。像をひとつずつ盗み出しては街灯の下で壊さんでも、現場で確認すればすみますからな。盗み出すのは一つだけでいいから目立つこともない。
-でもね、それじゃ話がつまらなくなるし、ホームズの親分の出番もなくなるわけで……
-ごもっとも。ところで角の酒屋には、まだお神酒は残っていましょうか?
-おっと、もう空になりましたか。酒屋にはもう残っちゃいますまいが、どっちにしても、こちとら銭がありません。おや、先生、なにを見ていなさるんで?
どうやら先生は棚の上にある招き猫の貯金箱に目をつけたらしいのです。
-あ、先生、そいつを割っても中から真珠は出てこねえ。ナポレオンと猫じゃ勝負になりませんよ。
Comments
-仮定の質問にはお答えできない
思い返すに安保法案の時は・・・ホルムズ海峡がどうたらこうたら、隣の家が火事になったらどうたらこうたらとさんざん仮定の話で法案を押し通そうとしていらっしゃったのに、たんへんなご宗旨替えだなあと感じてる次第で・・・
ところで・・・お神酒の一合瓶を見るとその横に卵があってほしいと思うのは私だけなのでしょうか(笑)
Posted by: 三友亭主人 | January 24, 2021 08:30
>三友亭さん
「私は無能です」と白状するにも等しい発言をされるお方は、さっさと議員を辞めて故郷へ帰り、雪かきでもなさったほうが世のため人のためですよね。
いえね、世の中生れつき利口な人ばかりじゃないんだから、無能でもいいんです。必要なのは自知の明。ぼくみたいに無能を自覚して、せっせと雪を相手にスコップをふるっていれば、少なくとも人様の迷惑にならずにすむのではないかと……
> お神酒の一合瓶を見るとその横に卵があってほしい
給付金が出れば卵をど~んと一山。
Posted by: 薄氷堂 | January 24, 2021 10:28