Daily Oregraph: 緋色の研究捕物帖
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ここは入舟の一角。20年という歳月の重みをしみじみ味わっていただきたい。当然人間の顔だって20年もたてば相当傷むわけである。アルミサッシだけが不気味なほど新しいままに見えるのは、メガネのフレームがあなたのお顔ほど劣化しないのと同じことだろう(笑)。
さて予感的中して、ワトソン夫人となる女性は結局『緋色の研究』には登場しなかった。しかしワトソン博士の経歴については概略が判明した。
ワトソン先生は1878年にロンドン大学で医学博士号を取得し、軍医として第2次アフガン戦争(1878~1880年)に従軍。負傷して帰国したが「イングランド(注)には親類知己はいなかった」ため、ロンドンのストランド街にあるホテルに滞在した。
注:これを UK と解してはまずい。ワトソン先生はたぶんスコットランドの出身ではないかとぼくは思う。
しかしホテル住まいは高くつくため、手頃な下宿を探そうとしていたとき、偶然出会った戦友の紹介でホームズを知った。たまたまホームズはベーカー街に格好の下宿屋をみつけ、部屋代を折半してシェアルームする相手がいれば、そこへ引っ越したいと考えているところであった。ホームズとワトソンは意気投合して、おなじみベーカー街221Bの下宿に同居することになったというわけである。
二人が一緒に捜査を行った初めての事件が本作である。ホームズの性癖や独特の推理手法について知るには必読の作品といえよう。
せっかく読んだのだから、例によって気のついた点を指摘してみると、やはりもっとも大きな問題は、なぜ最後に犯人がのこのこホームズの部屋にやって来たのかという点である。
ホームズはまず現場に残された指輪をエサに犯人をおびき寄せようとして、新聞の朝刊に広告を出す。「今夜8時から9時の間に、ベーカー街221B ワトソン博士まで」というのである。犯人に気づかれぬよう自分の名前は出さなかったわけだ。
変装した謎の人物(実は犯人の協力者なのだが、その正体が不明のままというのも、この小説の弱点のひとつ)が現われて指輪(の複製)を受け取る。その人物は、追跡したホームズをまんまとまいてしまう。
途中省略していよいよ大詰め、辻馬車の馭者を勤める犯人を捕縛するために、ホームズは客を装い、手先に命じて馬車をベーカー街221B まで呼び寄せる。やってきた犯人は、ホームズの部屋で待ち構えていたスコットランドヤードの警部に逮捕され、めでたしめでたし……となるわけだが、本当にそうトントン拍子にいくだろうか?
逮捕された犯人は「おれはあんたの新聞広告を見て、ワナかもしれんと思った」のだが、友人が進んで代役を引受けてくれたと告白している。犯人は頭の働く、用心深い性格なのである。だから馬車を呼んだ客の名前は不明にしても、当然「ベーカー街221B」を記憶しているはずの犯人が、なんの疑いも持たずにやってくるとは不自然であり、ちょっと納得いたしかねる。あなたが犯人だとしたら、これはヤバいと察して、一目散に逃げ出すにちがいない(笑)。
さてもう一つ、この作品の犯罪の背景にはモルモン教がからんでいる。ドイルはモルモン教をよほど嫌っていたらしく、恐るべき悪の組織のように書いているけれど、かなり誇張しているような印象を受ける(21世紀の現代こんな書き方をすると物議を醸すだろうことは、まずまちがいない)。ちょっと興味を感じないわけではないが、ぼくはこの方面についてはあまりにも無知なので、うっかりしたことはいえない。これ以上は触れないでおこう。
次はいよいよ The Sign of Four に取りかかる予定だが、この題名については、どうして Four に定冠詞がつかないのだろうかと疑問を抱いていたところ、The Sign of the Four というバージョンもあることがわかった。これまた訳のありそうな話なので、いずれ気が向いたら調べてみたい。
なお繰返しお断りしておくが、決してあら探ししようとして読んでいるわけではないから念のため。あくまでも探偵小説としては見逃せないミスだと思ったまでである。
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