Daily Oregraph: 笹刈爺捕物帖
本日の最高気温は7.3度。上天気だがちょいと寒い。
ささの葉はみ山もさやにさやげども、見た目が貧乏くさいから、裏庭の笹刈りを決行した。といってもほとんどが斜面に生えているため、手の届く範囲に限られる。これで全体の半分ちょっとといったところだろうか。写真ではわかりにくいが、ぎゅうぎゅうに詰めこんで45リットルのゴミ袋に一杯。
さて本日の捕物帖は『グロリア・スコット号(The 'Gloria Scott')』、ホームズが探偵を職業とするきっかけとなった記念すべき事件である。当時ホームズはたぶんオクスフォードあたりの学生であった。
その頃の英国には、わが国でいう島流し・遠島に相当する刑罰があった。といっても、囚人をいっぺんにオーストラリアまで流してしまうんだから、俊寛の島流しとは距離も島の大きさもスケールがちがう。厄介払いと植民地開拓を兼ねた政策だったのだろう。
その囚人護送船として使われたのが、500トンのオンボロ帆船グロリア・スコット号である。詳細は省くが、航海中船内で反乱を起こした囚人たちが分裂し、負け組は水夫服を着てボートに乗せられ、本船から追放される。彼らは翌日豪州向けの別の帆船ホットスパー号に救助される。その救助されたうちの一人が本編の主人公というわけである。
実はこのあたりが本作品の泣きどころなのである。ホットスパー号の船長は彼らが「ある沈没した客船の生き残りだとたやすく信用した」というが、そうは問屋が卸すだろうか? 救助した船の船長としては事実を記録・報告する義務があるはずで、当然聞き取り調査をしたにちがいない。たとえ船長が無類のお人好しだったとしても、もし不自然な点があればきっと不審を抱くはずである。
まず沈没したという船についてである。船名はもちろん、いつどこでなにを積んでどこへ向かっており、いつどのように沈没したのか、などなど。また船が沈んだ以上、船主や船員の家族にも連絡する必要があるだろうし、うっかり下手な嘘をつくといずれバレてしまう。
一番問題になるのは沈没の原因である。ボートに乗っていた期間がごく短く、時化に会った形跡もないことは乗員の服装や健康状態からも一目瞭然だし、第一ホットスパー号も付近の海域を豪州へ向けて航行していたのだから、荒天のせいだといえばすぐに嘘だとわかる。荒天が原因でないとすれば、よほどもっともらしい話をでっち上げないかぎり船長を納得させることはできまいが、矛盾続出するのは必至で、それは至難の業だと思う。
次に救助された9名のうち5名は囚人で船員ではないのだから、アヒルの間に混じったスズメみたいなもので、シドニー到着までの間にボロが出る可能性もある。海難の経緯を聞いても一向に要領を得ないし、船員らしからぬ連中もいるとなれば、どうもあやしいと思うのがふつうである。だからシドニー上陸後すぐに彼らが名前を変えて自由行動できたというのは、当時は万事がいいかげんだったと仮定しても、全体としてはちょっと苦しい設定だと思う。
別にあら探しをするつもりで読んでいるわけではないが(笑)、ホームズ探偵は論理の緻密な積み重ねが売り物なんだから、読者の素朴な疑問には答えてもらわなくては困る。もしホットスパー号の船長がホームズみたいな人物だったら、たちまち真相を見破って、救助した9名を監禁し、シドニー到着後ただちに官憲に引き渡したであろう、というのがぼくの想像である。
……と注文をつけたけど、途中活劇シーンもあってなかなかおもしろいから、けっして読んで損はないと思う。次回は『マスグレイヴ家の儀式』を予定している。
【付記】時代がちがうといえばそれまでだけれど、現代ではこんなお話は成立しない。なにしろ今や世界中の船舶の現在位置がディスプレイ上に瞬時に表示されるのだから恐れ入る。いくらうまい作り話をしても、海上保安庁の取り調べを受ければたちまちお縄になることは間違いないのである。言い逃れは通用しませんよ、ねえ、スガさん(笑)。
Comments
>ささの葉はみ山もさやにさやげども
なんて歌にしたら素敵ですが、裏庭辺りに生え始めたら大変なんでしょうね。我が家では勝手に芝が伸び放題。猫の額ほどの地面でもいったん芝が生え始めたらほぼ退治困難。
・・・ましてや笹の葉ををや
Posted by: 三友亭主人 | November 17, 2020 22:16
>三友亭さん
去年あたりから目立ちはじめたのですが、大変なんてものじゃありません。
思い切り引っぱっても抜けやしませんから、小型ノコギリで茎を切るしかないんです。根っこはそのまま残るので、またいくらでも生えてくるという厄介なやつ……人間にもいますよね、こういうのが(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | November 18, 2020 11:00