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November 14, 2020

Daily Oregraph: 寒い日の捕物帖

 本日の最高気温は11.3度。天気はよく、風もそれほど強いというわけではなかったけれど、空気はひんやりとしていた。

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 雌阿寒岳には少し雪が積っていた。

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 今日も港町の突堤にカモメが集まっていたけれど、11日の写真との大きなちがいは、群れの手前の位置である。かなり奥側に後退している。まるできっちり線引きしたかのように揃っているし、この位置はだれが決めるのか、不思議でならない。

 さて本日の捕物帖は、まず『黄色い顔(The Yellow Face)』である。この作品は犯罪とは関わりがなく、いわば英国版人情噺といった趣がある。ネタバレできない話だから詳しくは書けないけれど、ホロリとさせる結末はたいへん後味がよろしい(講談に仕立てられるかもしれない)。ホームズものが世界中で長く愛される理由のひとつだと思う。

 お次は『株式仲買人(または株式仲買店員 The Stockbroker's Clerk)』だが、先日の女性家庭教師につづいて、失業して途方に暮れ、やっと勤め口を得たばかりの若い男がこの話の依頼人である。わが国の平均的なサラリーマンと事情が似ているところもあるので、やや詳しくご紹介してみたい。

 商売上の失敗によって倒産した前の会社では、彼の週給は3ポンドであった。一年52週として計算すると年収156ポンドだから、年収48ポンドの家庭教師の3倍以上。当時のポンドの価値が現在に換算してどのくらいかはよくわからないけれど、おおざっぱに推定してみたい。

 たとえば家庭教師の年収48ポンドを、当て推量で80万円としてみよう。月6.7万円ではとても暮らせまいというかも知れないが、住み込み・食事付きの条件なので、切り詰めればなんとかなるだろう。この割合だと1ポンドは約1.7万円だから、年収156ポンド≒265万円となる。依頼人の身なりはきちんとしていたというから、そのくらいは稼いでいたと思う。そうでたらめな推定でもないような気がするけれどどうだろうか?

 この依頼人には約70ポンドの貯金があったけれど、求職活動中に使い果たし、ついに万策尽きたところでやっと勤め口がみつかった、というところから話は始まるわけだ。

 この作品の当時はまだ失業保険なる制度はなかったので、貯金が尽きたら万事休すである。いくら人並みのスーツを着ていても、いずれはツンツルテンになる。それまでたまにはレストランで取っていた食事も、もはや夢のまた夢、ついには部屋を追い出されてパン一枚もろくに口に入らぬ事態に陥ることは目に見えている。

 「自助」といわれたって、いくら努力しても次の職が決まらなかったら、一体失業者はどうしていたのか大いに気になるところだが、それはもっと勉強しなくてはわからない。そんな大問題はもちろんぼくの手に余るからここでは扱わないけれど、学生諸君、探偵小説からだってテーマはいくらでも手に入るぞ。

 この短編では、依頼人がやっと年収約200ポンドの職を得たとたんに謎の人物が現われ、そっちへ行くのをやめてわが社に来れば給料年500ポンドプラス販売歩合金を出そうと誘ったのだから、大いに怪しい話である。実にうさんくさい話ではあるが、さてあなたならどうする?

 本日はなんだか寒い話になってしまった……

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