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October 31, 2020

Daily Oregraph: 捕物帖日和

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 本日の最高気温は13.1度。けっして寒くはないけれど、冬は近い。ナナカマドの実もずいぶん落ちて、参道のあちこちにちらちらと赤いものが見えています。

 よほどひまなのか、八卦見の爺さんがじっと本を読んでいると、通りがかりに声をかけた人がおります。

 -薄氷堂さん、ご書見ですかい?

 -あ、これは親分。いやどうもお恥ずかしい。さっぱり客が寄りつきませんのでな。

 -なんの本をお読みで?

 -なにね、エゲレスの目明しの話なんですが、質屋の地下から穴を掘ってご金蔵に入りこみ、大金をせしめようという盗賊を召し捕るんです。

 -ふうん、穴を掘るんじゃ大変だ。第一体中土まみれになっちまうから、たちまち人目につく。それに掘り出した土の始末をどうするか、これもちとむずかしかろう。

 -なるほど、そういわれてみればそうですな。

 -まだありますぜ。離れたご金蔵の床までぴったり届く穴を掘るのがまた難題、なにしろ見えねえんだからね。それに穴の真上に重い物でも置かれていた日には、床が持ち上がるめえから、一度でうまくいくかどうかは運次第ですよ。

 -いや、ごもっとも。筋立ては滅法おもしろいんだが、ちと無理がありますかな。親分にそういわれてみれば、この次の話にも難があります。

 -へえ、それはどんな?

 -祝言を目前にして花婿が忽然と姿を消すてえ話でしてな、これはご金蔵の話に比べれば、どうにも出来が悪い。ちょいと読んだだけで手品のしかけがすぐにわかっちまいますからね。とても謎というほどのものじゃない。第一、題名(注参照)に答が出ているから、八卦を見るまでもありません。

 -ははは、しかしひまつぶしができれば結構じゃありませんか。

 -冗談じゃない。これじゃおまんまの食い上げ、今日も米櫃空之助ですよ。情けねえ。

 -こう不景気じゃこの先を占ってもらうまでもねえからね。どうです、今日はもう店をたたんで、拙宅で一杯やろうじゃありませんか。話のつづきを聞かしておくんなさい。

 コナン・ドイルさんにケチをつけようとは、この二人いい度胸をしておりますが(笑)、捕物の話を肴に酒を飲もうというところは、さすが親分であります。

(注)原題は A Case of Identity だが、謎解きのヒントになるから、こいつはまずいんじゃないかな(笑)。これ、失敗作とまではいわなくても凡作だと思うよ。

 ちょっと考えればこの点は誰でも気づくことだから、題名の訳しように困った翻訳者たちは、『花婿失踪事件』とか『消えた花婿』などとしているが、まずは妥当なところだろう。Identity にこだわれば『花婿の正体』あたりが原題に近いと思うけれど、それでも十分ヒントになるから、『花婿の謎』または『謎の花婿』あたりでいいかもしれない。

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