Daily Oregraph: 絶望と希望
フェリーニの名作「道」の終り近く、泥酔して酒場を追い出されたザンパーノは、勢いに任せてドラム缶を持ち上げ、道路に放り投げる。
寅さんとはちがって、時々ふらりと帰る先のない大道芸人といえども、もちろん生まれ故郷はあるはずだが、イタリアでは住民票はどうなっているのか、ぼくにはわからない。しかしお上の配る(といわれている)十萬円を、住所不定の男がすんなりもらえそうにないことは確かだろう。
人を集めて芸を見せることができなくなったとすれば、その日暮らしの大道芸人は、一体どうやって生きていけばいいのだろうか?
-なにい、敬意、感謝、絆だと? おれさまの生活スタイルを改めろ、だと? 寝言を抜かすんじゃねえ。その前におれが野垂れ死にしちまうじゃねえか。くそったれめ!
というわけで、(映画とはちがって)この後ザンパーノはもう一本ドラム缶を放り投げるのであった。
そこへ通りかかった年配の神父さん、
-君の気持はよくわかるけれど、ドラム缶を投げたって事態は改善されないのですから、今度の選挙にはぜひ投票して、君の意思を示すべきです。
-ばかやろう、十萬円が届かねえおれのところに投票券なんぞ来るものか。
そういって彼はもう一本のドラム缶をつかみはじめたので、神父さんはあわてて逃げ出しながらつぶやいた。
-ああ、神よ。危険思想はここから生まれるのですね……
さて「戦艦ポチョムキン」で始まった今回のシリーズ、最後を飾るのは同じ作品のエンディングである。
もちろんぼくたちは歴史を学んだから、水兵たちの喜びがいつまでも続くものでないことは十分承知している。体制が変れば変ったで、また新たに厄介な問題が発生するのだから、人間というやつはまことに困ったものだ。
そうはいっても、この場面が感動的であることは否定できない。たとえ束の間の希望であっても、希望は希望である。
Comments
映画パロディシリーズの存続を
希望いたします。
面白すぎます。
Posted by: しょうちゃん | May 08, 2020 08:36
>しょうちゃんさん
そういっていただけると励みになります。どうもありがとうございます。
一番の問題は著作権が70年間ということですね。せめて50年間でしたら、かなり自由に選べるんですが……
YouTube には著作権が切れていない映画の一部分だけを編集してアップしている例がいくらでもありますから、一画面くらいならケチをつけられることはないような気もします。
しかし世の中には、自分はいくらでも法を曲げるくせに、都合のいいときだけ「法律を守れ」という連中がいないでもありませんから(いや、実際国のトップにもいますよね)、難癖をつけられぬよう、一応用心しておいたわけです。
要するに材料が少なすぎて弱り果てたというのが実情です(第一「戦艦ポチョムキン」なんぞを知っている若者がどれほどいるでしょうか? 「第三の男」あたりも、そろそろ怪しいと思っています)。
そうはいっても、やってみると意外におもしろいので(笑)、材料がみつかり次第、散発的に掲載するつもりです。
Posted by: 薄氷堂 | May 08, 2020 09:42