Daily Oregraph: 坊っちゃん花見のやけ酒
本日は京都通信員の花だより。6日に撮影した木屋町通蛸薬師の桜である。昼間から木屋町あたりをウロウロするとは呑気な男だが、散歩は気晴らしになっていいだろう。
こちとら新型コロナによる引きこもりではなく、一日中鉄板の腐食だとか、爆発事故の原因などという、専門外のヤボな文章につきあっているんだからたまらない。
さて工学的にいう「疲労」とは、力持ちがエイヤッとばかりに鉄棒をいっぺんに折ってしまうのとはちがって、何度も何度も繰り返し力を加えているうちに材料がくたびれて(?)、ついにポキリといってしまうことをいう。
どこまで我慢できるかを疲労強度というのだが、どんなに強度があってもたいていはいつか降参してしまうものだ。鉄の棒でさえ折れてしまうのだから、ぼくの繊細な神経の疲労強度が低いことはいうまでもない。正面からはアベシャツ、背後からはウィルスに連続攻撃をしかけられるのでは、もはや落城寸前である。
ここからはおれ=三友亭さんとしてお読みいただきたい。アベシャツのケチがぼくに移ったから、出演料は差し上げないけれど……
気晴らしには熱燗をやるにかぎる。暖かくなってきたから、おさんに燗をつけさせて、神社の桜が見える窓を開けてグイグイ飲んでやった。
翌日何気なく教室へ入ると、黒板にでかでかと「呑兵衛先生」と書いてある。おれの顔を見てみんなワアワアと笑った。「おれが酒を飲んじゃおかしいか」と聞いたら、生徒の一人が「しかし銚子四本は過ぎるぞなもし」と云った。四本飲もうが五本飲もうが、おれの銭でおれが飲むのに文句があるもんかと、さっさと授業をすませて家へ帰ってきた。
すると玄関に郵便がいくつか届いていた。最初の封筒を破ってみると給食用の布マスクが二枚出てきたから呆れた。文部省はこんなものを教師に使えというのか。次の封筒は和牛券だ。こんな奇妙なものは初めて見た。最後は魚券だ。いったいなんの冗談かは知らないが、ばかにしていやがる。第一肝心のものが見当たらないじゃないか。
「おい、封筒はこれだけか」とおさんに聞くと、「ほかには来ていませんがな、先生」と云う。愛想のない女だ。
おさんに券を渡して「これで肉と魚を買ってきてくれ。それから酒もだ」と云うと、おさんは手を出しておれの顔を見上げた。「なんだ」と聞くと、「券が足りないぞなもし」と云う。だから肝心の銀行券が届いていないと云うのだ。
「酒屋はツケにしておけ。そのうちまた封筒が届くにちがいない」
この日の晩は、気分がむしゃくしゃするから、牛肉をたらふく食って、鯛の塩焼きをつついて、銚子を五本片づけた。酔ってそのまま寝たら、翌朝さかんにクシャミが出る。仕方がないから給食のマスクをした。実にくやしい。
……とまあ、マスクをして教室に入ったら、黒板になんと書かれていたかは知らないが、その晩先生の銚子の数がさらに増えたことはまちがいなかろう。これで市が栄えた。
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