Daily Oregraph: 雪の夜の新平家物語
07時30分。二階の窓を開けたら、冗談のようにでかい牡丹雪が舞い降りていた。こいつは冬の最後の抵抗を示す雪なのだが、間もなく止んで青空が出た。
20時30分。しかし敵もさるもの、負け戦と知りながら、再びしつこく降ってきた。もっとも4月の下旬にどか雪が降ったことだってあるから、油断はできない。
たとえ政府が雪は自粛してくださいといったって(笑)、雪がハイハイということを聞くわけがない。それと同様に、一億火の玉、勇猛果敢に一致団結して戦おうといったって、ウィルスにはちっともこたえない。おまえ、バカじゃないかと笑われるのがおちだろう。
はい、バカなんです。イベントは自粛せよといいながら、オリンピックはやりたいというんだから、バカにちがいない。それとも「オリンピックはイベントではない」と閣議決定するつもりだろうか。
それだけではない。不要不急の外出の自粛を呼びかけながら、「外食や旅行代金の一部を国が助成」するというんだから、もはやバカ未満である。しかも意地でも消費税をゼロにしたくないとは、
-民間の憂ふる所を知らぬおおたわけじゃ。助さんや、ちと懲らしめてやりなさい。
-いや、ご老公、それでは足りませぬぞ。世のため人のため、壇ノ浦に沈めてしまわねば……
-うむ、あやつは長州であったな。さらば、与一を呼べ。
ご老公のお召しによって参上したのが下野国の住人那須与一宗高、このとき二十歳ばかりのイケメンにして、天下に聞こえた弓矢の上手、南無八幡大菩薩と唱えて、精神一到何事かならざらん、鏑(かぶら)を取ってつがい、よっ引いてひょうど放てば、あやまたず……
-へえ、それでどうなりました、親分。
いつの間にか舞台は変りまして、髪結床の二階で親分の話を聞いていた八公、思わず身を乗り出しております。
-どうなったって、おめえ、那須与一かゴルゴ13かてえくらいだから、的を外しっこねえやな。
-てえしたもんですねえ。ふ~ん、悪人はめでたく壇ノ浦の藻屑と消えるか…… そうこなくちゃいけねえ。さぞかし与一はもてたでしょうねえ。
すると親分、煙管に火を点けてぷかーりと煙を吐きながら、
-おい、障子を閉めな。雪が降ってきやがった。
見れば江戸の町の夕暮れに、大粒の雪がひらひらと舞い降りているのでした。どっとはらい。
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