Daily Oregraph: センチな気分
-いやあ、親分、また降りましたねえ。
-おお八、いいところに来た。おめえ、雪をかきな。
-ちぇっ、道理で家を出るときいやな感じがしたんだ。
-まあ、そういうない。あとで一杯飲ませてやるさ。どれどれ、おれは雪の深さを測ってみよう。
-どうでしたい?
-そうさな、18センチから23センチってとこかな。
-ねえ親分、江戸時代にメートル法はありませんや。NHKの大河ドラマでさえ、センチとはいわねえ。
-いや、そうとも限らねえさ。メートル法てえのは案外古いから、西洋かぶれが使っていたとしてもおかしくはねえ。ごたごた抜かすやつがいたら、「尺もメートルもあたりまえに使われていた」と閣議決定しちまえばいいんだ。
-へへへ、そいつは乱暴、いや、クールでセクシーなアイディアですね。
-馬鹿な野郎だ、まったく。だからおめえは大学校まで出て、岡っ引きの手下なんぞをしているのだ。無駄口叩かねえで、さっさと雪かきしろい。
さてかわいそうなのは八公で、結局この雪かきには半日以上もかかったのでした。なぜかと申しますと、これがただの雪ではない。湿った重い雪だからたまりません。たちまち腕がだるくなるのであります。
八公が道具を片づけて座敷に上がりますと、長火鉢にかけた鉄瓶からはさかんに湯気が立ちのぼり、燗酒のいい匂いがぷんと漂ってまいりました。渋い顔をしていた八も鼻をひくつかせ、とたんに機嫌を直したのでございます。
やがて二人は酒盛りを始めましたが、相変らずの曇り空。明日の朝もまた雪が降るといううわさでございます。やれやれ……
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