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June 17, 2019

Daily Oregraph: Money Talks (最終回)

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 「話せばわかる」とはよくいわれることばである。暴力をふるわなければ警察は出動しないのだから、労働者側はあくまでも平和的に交渉すべきだ……当然そういう意見も出てくるだろう。穏当な意見である。実際に、

 ストの参加者たちは、リーダーや新聞の助言に従って、平和的に闘いを進めていた。目立った暴力沙汰は起こらなかったのである。(第44章 以下同様)

 しかし一日ごとに運行される電車の数は増え、会社側からはストは無力だとする声明が次々と発せられる。これに怒った労働者たちは、結局平和的なやりかたをつづけていては会社を利するだけで、いずれすべての電車が運行されれば、自分たちは見捨てられると考え、ついにスト4日目には実力行動に打って出る。

 突然彼らは燃え上がった。一週間というもの激動と緊張とがつづいた。電車は襲撃され、乗務員たちは襲われ、警官は組みつかれ、レールは引きはがされ、銃声が轟き、とうとう路上では乱闘や暴動が頻発し、町はミリシアに包囲されるに至った。

 とまあ、大変な事態になったわけだが、そんなこととはつゆ知らず、電車の運転技術を仕込まれていたにわか運転手は、いよいよ電車を出発させることになった。電車には護衛の警官二名が同乗する。

 あぶなっかしい運転で街角を曲がると、ひとりの少年が「スキャブ! (Scab!)」と罵声を浴びせる。スキャブというのは、スト不参加者やストによって生じた欠員を埋める労働者のことをいう。ようするに「スト破り」という意味だが、語感としては「ブタ野郎」あたりが近いんじゃないかと思う。

 次の角では六人ほどの男達がヤジを浴びせる。さらに三四丁ほど進むと、線路に置き石があって電車を止めると、スト参加者やそのシンパの集団が説得をはじめる。

 「あんた、電車を降りなよ」と一人がもの柔らかにいった。「あんただって人様のおまんまを取り上げたかないだろう?」

 そこに同乗の警官が割って入って、言い合いがはじまり、ちょっとした騒ぎになる。

 「どかんか!」と警官は叫んで、警棒を振り回した。「脳天に一発くらわすぞ。どけ!」

 そしてほんとうに一発食わすと、だれかが警官に拳固をお見舞いする。幸い大事には至らず、置き石を片づけていると、群衆からは「貧乏人から仕事を奪うスキャブ野郎め!」などと、さまざまな罵声が浴びせられる。

 置き石を片づけ終って電車を発車させようと、

 二人の警官が運転手のとなりに乗り込み、車掌がベルを鳴らすと、ドスンドスンと音を立てて電車の窓や乗降口から大小の石が飛び込んできた。石のひとつはぎりぎりのところでハーストウッド(運転手)の頭をかすめた。もうひとつの石は背後の窓を粉々に割った。

 こんなことが一日中つづくのだからたまらない。さらに描写はつづき、一気に読ませるところなのだが、途中そっくり省略して、車庫に戻る寸前では群衆が押し寄せ、運転手は引きずり降ろされ、警官との間でなぐる蹴るの乱闘になる。かくして大混乱のうちにこの日は暮れる。

 さてもうお気づきのとおり、ストを打つのも貧乏人なら、スト破りして電車を動かすのも貧乏人、そしてストを鎮圧する現場の警官も(貧乏人とはいえないとしても)しょせんは安月給取りにすぎない。

 「貧乏は自己責任だ」などといって涼しい顔をしている連中は、けっして現場に姿を現わしはしない。現場では、三者とも目の前のわかりやすい相手を敵とみなして互いに傷つけ合っているわけだ。つまり損をするのは貧乏人ばかりである。

 しょせん昔の小説中の話じゃないか、というのはあたらないだろう。現在では貧乏が底上げされたというだけで、基本的にはたいして変っていないのだから、よく現実を見たほうがいい。さまざまな手を用いて、生活保護受給者をののしらせ、けっして贅沢などしていない大多数の年金受給者を憎ませ、堅気に暮している在日朝鮮・韓国人たちのありもしない在日特権を非難させようとする。つまり貧乏人を分断することで得をするのは誰なのか、お互いよく考えたほうがいいんじゃないかと思う。

 おっと、いつの間にかドライサー先生の調子が伝染してしまったらしいけれど、ちょっと立ち止まって、「あれはほんとうかしら?」と、なにごとも一度は疑ってみる人がひとりでも増えてくれるとうれしいのだが……

【付記】本日の写真は、(たぶん)運動会の練習風景。記事の内容とはまったく調和しないけど、不協和音にも味がある(?)。

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