Daily Oregraph: 氷ゆるむ
昨日古本屋で拾った鏡花『日本橋』の初版復刻本から。装幀は小村雪岱。色っぽいご婦人が登場するだけに、殺風景な春採湖の眺めとは大ちがいである。
パラパラめくっていると、ギョッとした。
「真個(ほんとう)に貴下(あなた)、そんなぢや情婦(いろ)は出来ない。口説くのは下拙(へた)だし、お金子(かね)は無ささうだし、」
おいおい、それはおれのことかい(笑)。
いったい鏡花の小説は文章が独特だから読みにくいし、筋もわかりにくいものが多いけれど、そんなことはどうでもいい。不世出の天才ゆえになんでもゆるされるのである。
おいおい、それはおれのことかい(笑)。
いったい鏡花の小説は文章が独特だから読みにくいし、筋もわかりにくいものが多いけれど、そんなことはどうでもいい。不世出の天才ゆえになんでもゆるされるのである。
たとえば、
もはや筋がどうの、意味がどうのとヤボなことをいってる場合じゃない(笑)。あだな声、下駄の音、留木(香木)の匂い。朧を透かした霞の姿とははっきりわかりかねるけれど、いきなり暗がりに女が幽霊のように出現した情景を、極上の酒を舌で転がすように味わえばいいのである。
少なくとも……国会で繰り返されるやりとりよりは一万倍も上等の日本語だから、すさんだ心の安定を取り戻す妙薬にはちがいない。
Comments
「媚」「婀」娜」「留楠木」なんて字面がいいですなあ。実に風情がある。
「情婦」と書いて「いろ」と読ませるのも・・・たまらんなあ・・・
Posted by: 三友亭主人 | March 10, 2019 08:58
>三友亭さん
鏡花の文章は酔わせますよねえ。
ときどき現実と非現実、生身の人間と幽霊との境界が曖昧なところもあるし、飛躍が多いから、凡人にはわけがわからなくなることもあるんですけど(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | March 10, 2019 11:39