Daily Oregraph: すゐとんの話
そろそろ生存証明写真を載せなくてはいけないころである。
どうしたわけか、読書は比較的順調にはかどっている。要するにインターネットなどに割く時間を減らせばわけはない。スマホ中毒のみなさまも、たまには正気に返ってみてはいかがであろうか。
ぼくはアカウントを持っていないから、人様のツイッターをのぞいて見るだけなのだが、あちこちで政治向きの記事を拝見すると、某首相や官房長官の写真が多いのには閉口する。飯がまずくなるから(笑)、あんなつまらぬ写真はできるだけ減らしたほうがよかろうと思うのである。
さて悪相を見て減退した食欲を回復するには、うまそうな食べ物の話題が有効だし、もりもり食べて元気になれば、次の選挙にはぜひ投票しようという意欲もおのずと湧くにちがいない。
ぼくはアカウントを持っていないから、人様のツイッターをのぞいて見るだけなのだが、あちこちで政治向きの記事を拝見すると、某首相や官房長官の写真が多いのには閉口する。飯がまずくなるから(笑)、あんなつまらぬ写真はできるだけ減らしたほうがよかろうと思うのである。
さて悪相を見て減退した食欲を回復するには、うまそうな食べ物の話題が有効だし、もりもり食べて元気になれば、次の選挙にはぜひ投票しようという意欲もおのずと湧くにちがいない。
そこで今日は「すいとん」を取り上げてみた。
夜は通りに種々な食物の露店が出た。鮨屋、しる粉屋、おでん燗酒、そば切りの屋台、大福餅、さういふものが小さい私の飢(うゑ)をそそつた。中で、今は殆どその面影をも見せないもので、非常に旨さうに思はれたものがあつた。冬の寒い夜などは殊にさう思はれた。それはすゐとんといふもので、蕎麦粉かうどん粉をかいたものだが、其の前には、人が大勢立つて食つた。大きな丼、そこに入れられたすゐとんからは、暖かさうに、旨さうに湯気が立つた。そこにゐる中小僧(ちゆうこぞう)が丼を洗ふ間がない位にそのすゐとんは売れた。-田山花袋『東京の三十年』より
はっきり年代は書いていないけれど、たぶん明治14~15年ころの話だろうと思う。当時花袋は東京に出てある本屋の小僧として働き、腹を空かせながら、重い本を背負って町々を歩き回っていたのである。
はっきり年代は書いていないけれど、たぶん明治14~15年ころの話だろうと思う。当時花袋は東京に出てある本屋の小僧として働き、腹を空かせながら、重い本を背負って町々を歩き回っていたのである。
ずいぶん昔からある食べ物なのに、「すゐとんといふもの」というからには、田山少年はそれまですいとんを知らなかったらしく、そこがぼくの興味を引いた。
「今は殆どその面影をも見せない」とあるが、すいとんそのものは庶民に食べられつづけていたわけだから、すいとんの屋台が町から姿を消したというのだろう。
けっしてぜいたくな食べ物ではないし、天下の美味とまではいえないけれど、腹を空かして金のない小僧にとっては、初めて目にした「すゐとんといふもの」がいかにもうまそうに見えたらしい。ちょっとホロリとさせられるところである。
ぼくはすいとんによだれを垂らしはしないが、おでん燗酒の屋台にはふらふらと引き寄せられそうな気がする。そこへすいとんの湯気が流れてくる。汁粉の甘い匂いも漂ってくる。あとで子どもの土産にと、大福の屋台をちらっと横目に見て免罪符を買ったような気分になる。
ぞろぞろ歩く人々の靴音や下駄の音にまじって人力車が通る。馬車が走る。さっきの小僧さんは、なけなしの小銭を握りしめて散々迷った末に、すいとんを求める人の列に加わったようだ。
Comments
ウイキペディアによれば(私はかの有名な作家先生とは違うのでここできちんと引用元をお示しします)すいとんは「江戸時代から戦前は、すいとん専門の屋台や料理店が存在しており、当時の庶民の味として親しまれていた。」とあります。そして大正期に入り一度は衰退したものの「関東大震災直後には食糧事情の悪化に合わせて」再び普及し始めた・・・と考えられます。
ということを裏読みすれば明治の辺りまでは単なる非常食ではなくまっとうな料理の一種であったといえるのではないか・・・と。
ところで・・・田山花袋は群馬の生まれ。群馬は二毛作が有名で麦作りが盛ん。したがって粉食は一般的だったはずで「つみれ入り団子」、「おつみこみ」、「ねじっこ」、「とっちゃなげ汁」などいろいろな名前で「すいとん」を呼んでいます。さすれば当時の田山少年は「すいとん」という言葉が、それまで自分が使っていた「つみれ入り団子」、「おつみこみ」、「ねじっこ」、「とっちゃなげ汁」などのうちのどれかとが同じものだと気づかなかったのかもしれませんね。
まあ、単に田舎での少年には高嶺の花で見ることもできなかったものなのかもしれませんが・・・
Posted by: 三友亭主人 | January 16, 2019 22:45
>三友亭さん
いろいろお調べいただきましてありがとうございます。
> 田山花袋は群馬の生まれ
そうなんですよね。だからどうして「すゐとん」を知らなかったのかなあと疑問に思ったのです。
> いろいろな名前で「すいとん」を呼んでいます。
なるほど。でも食べてみれば「なあんだ、これか」と了解するはずなんですが、味つけや一緒に添える具材にちがいがあったため、似て非なるものと思ったのでしょうか?
いずれにしても、田山花袋にすゐとんは似合っているような気がします。いえ、馬鹿にしているわけではありませんよ(笑)。たとえばエリート臭芬々とした森鴎外がうまいうまいといってすゐとんを食べている図はちょっと想像しにくいと思うのです(案外好物だったりして……)。
Posted by: 薄氷堂 | January 17, 2019 08:56