Daily Oregraph: すゐとんの話 (2)
日本海側は荒れ模様だというのに、釧路はごらんのとおりほとんど雪がない。ありがたいことである。
さて前回は田山花袋の「すゐとん」を取り上げたが、「すゐとん、すゐとん……」とつぶやいているうちに思い出したのが、宮澤賢治の「停留所にてスヰトンを喫す」である(本来全文を掲載すべきであるが、長くなるので青空文庫などをご参照いただきたい)。
わざわざここまで追ひかけて
せっかく君がもって来てくれた
帆立貝入りのスヰトンではあるが
というすゐとんは、
この田所の人たちが、
苗代の前や田植の後や
からだをいためる仕事のときに
薬にたべる種類のもの
苗代の前や田植の後や
からだをいためる仕事のときに
薬にたべる種類のもの
というから、たとえ帆立貝が入ってなくても、このへんの農家の人々にとっては、すゐとんは体が温まるから、まずは中等以上の部類に属する食べ物だったのだろう。
しかしあいにく熱のある賢治は食欲がなく、
ああ友だちよ、
空の雲がたべきれないやうに
きみの好意もたべきれない
せっかくの心づくしのすゐとんを食べ残してしまうという、万感の思いがこもった詩である。
腹ぺこの本屋の小僧には「非常に旨さうに思はれ」、賢治の友人がわざわざ停留所までもって来てくれたというすゐとんは、昼飯に二万円の天麩羅を食って得意顔をしている連中には無縁のごちそうである。もちろんB級グルメなどとはいいたくない。
丁度すゐとんのうまい季節である。ひさしぶりに熱いのをフウフウいいながら食ってみたくなった。あなたもぜひ……
Comments
北海道では大変なことになっていると聞いたんで、薄氷堂さんはさぞかし雪かきとに精を出していらっしゃることかと・・・
・・・と思っていたら、これでは雪かき後の熱燗が楽しめないじゃあないですか・・・
おんなじ北海道でも日本海側とはだいぶ違いますなあ。
まあ、東北だって太平洋側と日本海側は全く違いますもんね・・・
Posted by: 三友亭主人 | January 19, 2019 10:50
>三友亭さん
釧路でもこれほど雪の少ない冬はめずらしいです。こんなに楽をしていいのでしょうか。
え、雪かきあとの熱燗ですって? とんでもありません。労働の後はすゐとんですよ。
そうそう、熱々の入麺なんてのもいいかもしれませんね。
Posted by: 薄氷堂 | January 19, 2019 20:41