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January 07, 2019

Daily Oregraph: 刃なしの梨

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 あいかわらず好天がつづいているけれど、日陰の通りはごらんのとおり。

 さて正月早々意外の出来事があったため、ちょっと生活のリズムが狂い、ブログをさぼっていたら、案の定、あいつ倒れたんじゃないかと心配して、メールをくださった方がいる。そこでしょうもない生存証明写真を載せた次第である。

 読書はつづけているのだが、案外こういうときは頭が受動態(?)になっているものだし、そうでなくとも本によってはネタにしにくいものもある。

 しかしなにも書かないのは無愛想だから、ジョイスの小説からほんの一節を取り上げてみよう。英単語をふたつ、確実に覚えられるので、受験シーズンにはぴったりかもしれない。

 ブラインドの端と窓枠との隙間から、青白い光がひとすじ洋梨(pear)のように射し込んだ。-『若き日の芸術家の肖像』(第3章)より

 はて、「洋梨のように」とは奇っ怪な。いくらえらい小説家だって、そんなへんてこな比喩を用いるものだろうか?

 察しのいいお方ならすぐにわかるように(高校一年生ならほめてあげます)、もちろんこれは誤植である。この場合、pear は洋梨というより「刃なし」だから(笑)「刃」をつけて spear(槍)にしてやれば、一条の光が鋭く射し込んだという、うまい形容になる。

 とにかく誤植には腹が立つものだ。ヘンだなあとは思いながらも、意味がすぐに取れぬ場合、まずは自分の頭を疑わざるをえないからである。ちゃんと活字を組んでくれよな。

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Comments

とくに相手がジョイスだと、何か意味があるんじゃないかと思っちゃいますね。
『水滸伝』の翻訳を読んでいたら、「胡麻と辛子をいれていためた豆腐」というのが出てきて、原文を当たってみたら「麻辣豆腐(≒麻婆豆腐)」でした。
昔の麻辣豆腐にはゴマが入っていたのかと思いきや、「麻辣」で一単語なのに「麻」を胡麻、「辣」を辛子として訳してたようです。

Posted by: 中川聡 | February 03, 2019 23:08

>中川さん

 この当時のジョイスはまだわりとふつうの文体ですから、なんとなく(なんとなくですよ(笑))わかります。

 水滸伝はこれまで三回ほど通読しましたが、麻婆豆腐の場面は記憶にありません。人肉饅頭は覚えていますけど(笑)。

 抜群に面白い小説ですけれど、最後がいけませんね。官軍を大いに悩ませるあたりまでは痛快なんですが、結局中央の高級官僚どもに手玉に取られ、損な仕事ばかりさせられるという……思うに小役人上がりの宋江などを首領にしたのが間違いのもと。読むたびに、思わず「バカヤロウ」といいたくなるのであります。

Posted by: 薄氷堂 | February 04, 2019 19:21

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