Daily Oregraph: 二月の幽霊話
ここを歩くのはほんとうにひさしぶりである。
確定申告をすませて(たいした稼ぎもないのに……)ホッと一息ついたので、散歩に出ようという気になったのだが、風はまだ冷たく、とても足取り軽くとはまいらない。彩りというものが一切ないから、ひたすら足元を見ながら、肩をすぼめてトボトボ歩くしかないのである。
例の廃屋はいっそう傾きを増したように見える。
明日をも知れぬわが身と重なり、気になってしかたがないのである。長生き必ずしも幸福とは限らないのだから、いっそのこと早く自壊して楽になって欲しいと思わぬこともない。
それにしてもこうまで荒れ果ててしまっては、幽霊だって逃げ出すにちがいない。
そもそも廃屋や墓場を幽霊の住処と思いこむのは大まちがいである。幽霊が人間のなれの果てである以上、寒風吹き込むむさ苦しいあばら家や、ジメジメした土の中などに住みたがるわけがない。
幽霊となって出てくるくらいだから現世に未練のあることは明らかで、清潔かつ快適な冷暖房完備の住居のほうを好むに決まっているではないか。各種アルコールがあれば申し分ない。
デタラメをいうな! とお怒りの方もいらっしゃるだろうが、死んだあとのことはだれにもわかりようがないのだから、なんとでもいえるのである。だから死んでみたら、案外薄氷堂説が正しいと証明されるかもしれない。そのときはぜひ報告していただきたい。お待ちしている(笑)。
廃屋前の空地をウロウロするキタキツネ。
どこかで盗み食いをしているのか、だれかが餌を与えてるのか、そうやせ衰えているようには見えない。
しかし相変らず挙動はコソコソとしているし、冬の敗残兵という格である。
待てよ、おれだって似たようなものか……
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