Daily Oregraph: 時は飛ぶ
気の早い正月用の餅が店先に並ぶ季節になった。さてあと何年この餅を見ることができるだろうか……てなことを考えるようになるとは、つい最近まで夢にも思わなかった。
今朝 H.G. ウェルズの短編集を読み終えた。SFの古典として知られる例の『タイムマシン』を初めとする21編の作品が収められているのだが、どれも面白く読めた。なにしろ理工系出身の作家だけに、地球の自転がいきなり止まったらどうなるかということまで教えてくれる(あまりの恐ろしさに、ぼくはボーッとしてしまった(笑))。
『タイムマシン』を読むのは二度目だが、やはり傑作の名に恥じぬ作品だと思う。あえて難点を指摘すると、第一に、緻密な頭脳を持つ用意周到な主人公があまりにも無防備な状態で未来へ乗り込んだのはやや不自然であること、第二に、退化して半ば野獣化した地下人たちに地下の複雑な機械設備がどうして維持できたのか疑問であること。
しかしそれらはささいな欠点であって、飽きさせず一気に読ませる手腕はさすがである。地球の終末間近の風景を描写した文章などは、豊かな想像力をいかんなく発揮し、たいへん壮大で美しい。
さてタイムマシンが最初に到着したのは、Eight Hundred and Two Thousand Seven Hundred and One A.D. の世界である。ええと、802千と701だから、802,701年か……う~む、ややこしい。
ややこしいから、「weblio 英語例文」のサイトでは「紀元802千2701年」などという奇妙なミスをやらかしているが、正しくは八十万二千七百一年である。数字表現に関しては日本語のほうが明快だと思う。
ウェルズによると、八十万二千七百一年のイギリス地上人はパンも肉も食べず、果物だけで生きているのだそうな。とすれば、その頃には日本地上人も米はもちろん餅も魚も食わないにちがいないけれど、わが民族が果食に耐えられるかどうか……
小説を真に受けてどうするんだ、というご指摘はごもっともである。よろしい、その頃の日本では正月の餅を売っていないかどうか、このぼくが確かめにいってまいりましょう。
1895年の小説に登場する機械が21世紀に存在しないわけがありませぬ。タイムマシンをご用意願いましょう。
【追記】 たった今発見したのだが、「weblio 英語例文」では『タイムマシン』から別の例文も引用されており、そちらのほうは「80万2千701年」と正しく和訳されている。いずれにしても、ややこしいからケアレスミスを誘うことはまちがいないと思う。
Recent Comments