Daily Oregraph: 日本むかしばなし 雪見酒
うっすらと雪の積もった裏庭で……
-あら、おじいちゃん、珍しいわね。お仕事?
-うん、ナナカマドの枝を払ったのさ。
払った枝を焚火にして燃してしまえば手数はかからないのですが、ナナカマドは燃えにくいし、最近は消防もやかましいので、そうはいきません。
枝をゴミとして引き取ってもらうためには、適当な長さにそろえて束にしなければなりません。たったこれだけの量ですけれど、ずいぶん時間がかかったのです。
-ふうん、感心、感心。見直しちゃった。
おじいさんは腰をさすりながら、
-いやあ、すっかり身体が冷えちまったよ。冬だなあ。
おじいさんが枝の束を片づけて家に入りますと、台所から花子さんの呼ぶ声がします。
-おじいちゃん、お燗がついたわよ。暖まってちょうだいな。
-おお、気が利くじゃないか。
燗をつけた酒からはうっすらと湯気が立ちのぼり、おじいさんはニコニコしながらコップを手に取るのでした。
……とまあ、そんなほのぼのとした情景も、「昼間から飲酒とはなにごとだ。もっと働いて生産性を上げろ」という、もののあはれを解さぬグローバリズムの波に飲みこまれ、めったに見られなくなってしまいました。
-いやあ、うまい! うまいなあ。
おじいさんの幸せそうな顔を見て、花子さんもうれしそうにニッコリとほほえむのでした。
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