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November 05, 2016

Daily Oregraph: 日本むかしばなし 雪見酒

 うっすらと雪の積もった裏庭で……

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 -あら、おじいちゃん、珍しいわね。お仕事?

 -うん、ナナカマドの枝を払ったのさ。

 払った枝を焚火にして燃してしまえば手数はかからないのですが、ナナカマドは燃えにくいし、最近は消防もやかましいので、そうはいきません。

 枝をゴミとして引き取ってもらうためには、適当な長さにそろえて束にしなければなりません。たったこれだけの量ですけれど、ずいぶん時間がかかったのです。

 -ふうん、感心、感心。見直しちゃった。

 おじいさんは腰をさすりながら、

 -いやあ、すっかり身体が冷えちまったよ。冬だなあ。

 おじいさんが枝の束を片づけて家に入りますと、台所から花子さんの呼ぶ声がします。

 -おじいちゃん、お燗がついたわよ。暖まってちょうだいな。

 -おお、気が利くじゃないか。

 燗をつけた酒からはうっすらと湯気が立ちのぼり、おじいさんはニコニコしながらコップを手に取るのでした。

 ……とまあ、そんなほのぼのとした情景も、「昼間から飲酒とはなにごとだ。もっと働いて生産性を上げろ」という、もののあはれを解さぬグローバリズムの波に飲みこまれ、めったに見られなくなってしまいました。

 -いやあ、うまい! うまいなあ。

 おじいさんの幸せそうな顔を見て、花子さんもうれしそうにニッコリとほほえむのでした。

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