Daily Oregraph: プリンタ考 ああ、年賀状 (1)
インクジェットプリンタというのは、初期の頃からどこか不満のくすぶる製品だったように思う。
たしかに写真を印刷するときれいなのだが、たまに起こる目づまり、ぼったくり商法の見本みたいに高価な純正インク、ヘッドクリーニングのせいで印刷開始まで待たされる……などなど、忍耐力養成マシンのような趣さえある。
それらの欠点を除けば、どこの会社の機種もA4普通紙に印刷するかぎりではトラブルはほとんどないようである。
ところが L判などの写真用紙やハガキを使用する場合は、しばしば給紙に問題が生じ、まともに印刷できないことが少なくない。給紙については、かえって昔々の機種の方が安定していたと思うのである。
ぼくは最初 EPSON のプリンタを何台か使っていたのだが、いずれもプリンタヘッドの目詰まりで買い換えたもので、給紙については不満はなかった。ハガキを数十枚セットしても、たまに二枚まとめて排紙される程度で、おおむね良好だったと記憶している。
ここで初期のインクジェットプリンタがどんな仕組みだったか、手元にある Canon の iP4700 の外観をもとに示しておこう。
この機種は前面カセット(普通紙専用)と後面トレイ(普通紙+写真用紙・ハガキなど)の二段構えで、普通紙なら前面・後面とも約100枚ほどセット可能である。後面トレイにはハガキが数十枚セットできる(ことになっている)。
初期のインクジェットプリンタは、上図から前面カセットを取り除いたもの、つまり後面給紙オンリーであった。後面トレイはたしかに場所ふさぎなのだが、用紙の動きは多少カーブはあるものの、後部→前面とほぼ一直線だからシンプルそのものである。
前面カセットの用紙は、ローラーによって吸い込まれると、くるりと曲げられ、裏側が表になって印刷され、前面から排紙される。これがくせものなのだ。
普通紙の場合はなんの問題もないけれど、写真用紙やハガキなど厚手のものをひっくり返して印刷・排紙するのは、ふつうに考えてもちょっと無理がある。だから2009年発売の iP4700 では、厚手の用紙は後面トレイ専用としたのだろう。
しかし残念なことにこの機種は、購入当初から、ハガキなどを後面トレイに複数枚セットするとまともに給紙できず、一枚ずつ手差ししなければならなかった。いわゆる「当りが悪い」品だったのかもしれないが、説明書どおりに印刷できないのだから不良品といっていい。
それなのに返品または交換しなかったのはなぜだろうか?
第一に返品・交換するためには、再梱包をして返送するにしても、直接お店に出向くにしても、ムダな時間とエネルギーを要する。第二に、当初は一枚ずつ手差しさえすればスムーズに給紙できたから、手間はかかっても我慢できたからだ。
ところが一年、二年と使っているうちに、だんだん後面からの一枚手差しもスムーズに動作しなくなったのである。去年などは年賀ハガキ一枚ごとに数回セットし直さねばならず、癇癪が破裂しそうになった(笑)。
今回プリンタの配線を外した機会に後面トレイ内部を観察してみると、
わかりにくいので部分的にレベル調整してあるが、黄色いマルで囲った部分にはローラーと同じ幅のわずかな突起がある。
去年手の感触でわかったのだが、セットするときにハガキの先端がこのあたりに着地(?)するとうまく印刷できる。しかしまずそこには引っかからず、ストンと落ちてローラーに直接触れてしまうのだ。そこで何度もセットし直すのだが、その感覚たるや微にして妙、褒め称えるべきは日本のメーカーの技術力ではなく、ユーザの忍耐力と手先の器用さではないかと思ったぞ。
ぼくの場合、もともと製品の当りがわるかった上に、何年も使っているうちにローラーが摩耗または劣化するなどして、ますます給紙が困難になったのだと思う。
さて前回触れたブラザーのインクジェットプリンタ(DCP-J963N)だが、返品したのには決定的な理由がある。
この機種には一枚ずつの手差し限定ながら、補助的に背面給紙の機能がある。その場合、背面給紙→印刷→前面排紙という理想的な一直線の流れだから、きっとうまくいくだろうと思った。だからたとえ前面給紙でハガキが使えなくとも、背面から一枚ずつ手差しでいいやと考え、最初は返品するつもりはなかった。クレーマーどころか、なんとやさしいユーザであろうか(笑)。
ところが実際に試してみると、それもうまくいかない。手差ししたときに手応えはあるのだが、ローラーが空しくカラカラ回転する音がして、印刷されぬまま排紙されるのである。結局まともに印刷できたのは最初の一枚だけで、あとは何度試してもダメ。
文書印刷は別にモノクロ・レーザプリンタがあるから困らない。ハガキを印刷するために購入したというのに、前面からも背面からもハガキを給紙できないのでは使いものにならない。当りが悪いにもほどがある。返品したのは当然であろう。
ぼくには特定のメーカーをけなすつもりはまったくない。 Amazon の評価を読むと、どこの会社のどのプリンタでも、同一の製品を絶賛している人と、ボロクソに評価している人と、みごとに二極分化している。たいていほめている人のほうが多いのは当然であって、そうでなければ市場で販売をつづけられるわけがないからだ。
しかし外れを引いた人の数が無視できぬほど多いというのも事実である。もし製品の当り外れが多いとすれば、設計不良でない限り、部品の精度ムラ、または組立て精度や品質管理に問題があるにちがいない。
最近これほど不良品が多いとは、どうした、日本?
さてめずらしくプリンタの話題を取り上げたので、次回は現在使用中のモノクロ・レーザープリンタについて。ふだん文書印刷専用に使っているぼくのレーザープリンタにもハガキ印刷の機能があるから、ひょっとしたら……と思って試してみた結果をご報告しようと思っている。
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