« Daily Oregraph: 昼も夜も | Main | Daily Oregraph: 定期散歩航路 »

July 02, 2015

Daily Oregraph: 天使降臨

150702_01 
 めずらしく通行人をみかけた。ここで人に出会うのはめったにないことだから、ひょっとしたらキツネが化けたのかもしれない。

150702_02 
 いや、そうではあるまい。天使のはしごが見えるからには、きっとあのおじさんは天使が身をやつしたものであろう。まんざら根拠がないわけではないのだ。

 グリム童話の『貧乏人と金持』という話によれば、昔は天使が人の姿で地上を歩き回ったのだそうな。内容をかいつまんでご紹介すると、

 一人の天使が歩いているうちに日が暮れてきた。ひどく疲れていたので宿を探していると二軒の家があった。一軒は立派な構えで、もう一軒はあばら屋である。

 (余計なお世話だけれど、天使が肉体的に疲労するとは意外である)

 さんざん地上をさまよって世間を知っているから、貧乏人に迷惑をかけまいとして、金持の家の戸を叩いたのだが、「乞食を泊めるわけにはいかん。どこかよそをあたってくれ」と、けんもほろろに追い出されてしまった。

 (またしても余計なお世話だが、天使はボロをまとっていたらしい)

 わが国にもこれによく似た話があるから、このあとの展開はおおかたご想像がつくであろう。天使はもう一軒の貧乏人に歓待されるのである。

 「どうかお楽になさってください。なにもありませぬが、精一杯おもてなししましょうほどに」といって貧乏人が用意した食事は、ヤギの乳とベイクト・ポテトであった。

 (ジャガイモが欧州にもたらされたのは16世紀後半らしいので、比較的最近までは天使が地上を放浪していたようだ。それが事実だとすれば実に興味深い。しかし21世紀に天使をみかけたというウワサは聞かないから、天はすでに人類を見放したのであろうか)

 このあと貧乏人夫婦は天使にベッドを譲り、自分たちは藁を敷いて寝たのであった。すっかり感心した天使は、翌朝ごほうびとしてあばら屋を真新しい家に替えたのだそうな。

 (そんな不思議な力があるというのに、なぜ苦労して宿を探し歩いたのだ? というのは俗物の抱く疑問というもの。理由はいわなくてもわかるよね(笑))。

 さてこれを見て驚いたのが強欲な金持である。なにしろ消費税を何度も上げて人々を苦しめるくらいは朝飯前という男だから、貧乏人にトクをさせてじっとしているわけにはいかない。馬に乗って天使のあとを追いかけ、昨夜の不親切を弁解して、「わしの願いも三べんかなえてくださらんか」と頼みこむ。

 「かなえてもよいが、ろくなことにならんからおよしなさい」という天使の忠告など、もとより聞き入れるわけがない。天使もしぶしぶ承知して、「家にお帰りなさい。三つの望みはきっとかないましょうから」と請け合ったのである。

 帰る道々、金持がなにを望んだものかと思案しているうちに手綱がお留守になり、馬は突然暴れ出した。どうしても馬がいうことを聞かぬものだから、「貴様の首など折れてしまえばいいんだ!」と叫んだ瞬間、第一の願いがかなって馬はバッタリ倒れてしまったのである。

 ケチの習性として鞍を捨てるわけにはいかない。死んだ馬の体から切り離した鞍をにない、残った二つの願いをどうしたものかと考えながら、金持は歩きはじめた。そのうちに日はカンカン照ってくる。重い鞍は肩に食込んでくる。家では女房が涼しい部屋でノンビリしているかと思うと、むしゃくしゃしてならぬ。

 「女房のやつめ、このいまいましい鞍に坐ったまま離れなくなればいいのに」

 うっかりそう口走ったとたんに背中の鞍が消えて、第二の願いはかなったのである。まだ第三の願いがあるわい、家に戻ってとくと思案しようと考えた金持は、暑さの中を駆け出した。

 家に着くと女房が鞍に坐ったまま、体が離れないといって泣き叫んでいる。

 「いいからじっとしてろ。これから世界一の大金持になってみせるから」

 「あたしが鞍に坐ったままで大金持になったってしょうがないじゃないか。あんたの願いであたしを鞍に乗せたのなら、降ろしてくれるように願っておくれよ」

 かくして第三の願いもかない、女房の体が自由になったのはいいが、金持は結局何も得るものはなかったばかりか、馬まで失ってしまったのである。

 ……ひととおり読み終わって思うに、この強欲で浅知恵の金持はだれかに似ている。だれとはいわないけれど、似ているのだ。暴れていうことをきかなかったのは馬ではなく憲法学者のようにも思えてくる(笑)。

 問題は天使がそのへんを歩き回っているかどうかだ。おじさん、泊めてあげるからぜひ家に来てください。

|

« Daily Oregraph: 昼も夜も | Main | Daily Oregraph: 定期散歩航路 »

Comments

初めてのコメントですが、いつも拝見しています。この天使の梯子は同じ日、方向は違うでしょうが初めて不思議な気持ちでみていました。私は移住して以降数度「天使の梯子」と言う言葉を耳にして、何と素敵な響きと思っていました。東京方面のお友達たちに送信して教えたら、勿論聞いたことはない言葉だけど、この方のブログ素敵だねって。これからも楽しみにしています。

Posted by: 前期高齢者 | July 08, 2015 10:07

>前期高齢者さん

 いらっしゃいませ。コメントをいただきましてありがとうございます。

 なんでも聖書には天使が天地間のはしごを上り下りするということが書かれているそうです。雲間から漏れる光のはしごこそ天使にふさわしいですね。

 天使とはほど遠い男のしょうもないブログですが、これからもときどきのぞいてくだされば幸いです。

Posted by: 薄氷堂 | July 08, 2015 21:50

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« Daily Oregraph: 昼も夜も | Main | Daily Oregraph: 定期散歩航路 »